子どもが子どもの心の琴線に触れる『人の望みの喜びよ

『人の望みの喜びよ』(3月28日よりテアトル新宿にてモーニング&レイト公開)  ©344 Production

親子でじっくりと味わえるドラマとしておすすめしたいのが『人の望みの喜びよ』(3月28日よりテアトル新宿にてモーニング&レイト公開)だ。12歳の姉と5歳の弟を主軸に据えた本作は、大人よりもむしろ未就学児から小学生の子どもたちの心の琴線に触れるといってもいいかもしれない。

 

杉田真一監督

「中学のときに阪神大震災を経験してから、ずっと何かできたのではないか、なんで当時こういうことに気づかなかったのだろう?といった何もアクションを起こせなかった自分に後ろめたさと憤りを感じていました。それで長編デビュー作を発表しようとなったとき、こう思いました。“自分としては避けて通れない“震災”ときちんと向き合おう”と。これが作品の出発点です」

と手掛けた杉田真一監督が語るように本作は震災後の物語。ある災害によって両親を失った12歳の少女・春奈の姿を通し、不意の出来事に直面した人間の感情が丹念に描き出される。経験したことのない、いや経験したくもなかった悲しみ、停止したような時間、どんどん置き去りにされていく心。そういった春奈の胸の内に去来する想いが作品からは痛いほど伝わってくる。

「同じ家にいた事実から両親を助けられなかったという罪悪感に苛まれる春奈は、大きな十字架を背負ってしまう。でも、親族に引き取られると彼女否応なく、新しい町で、新しい家で、新しい家族と、新しい生活を始め、新しい学校に通い出すことになる。気持ちがなにも整理できないままなのに。そのときの彼女の心に思いを馳せて、なにかを感じてもらえたらうれしいです」と杉田監督は語る。

このように子どもの心に寄り添ったドラマは、昨年のベルリン国際映画祭のジェネレーション部門でスペシャルメンションを獲得。11~14歳の子どもで構成された審査員から「物語にどんどん引き込まれ、感動とともに涙が溢れた」と絶賛された。また、もうひとつ大きなポイントとしてあげたいのが、作品の根底に流れる“命”と言うテーマ。大切な人を失うということについて子どもが考えをめぐらすドラマは、生と死について深く考えさせる。核家族化が進む現在の日本では死が遠ざけられていると言われるが、親子で語れる機会になるかもしれない。

最後に杉田監督は「あえて場所や災害を特定しなかったのは、今後もどこかで誰にでも起こりうることとして受けとめてもらいたいとの思いから。よくあるファミリームービーではないと思うのですが(笑)、ぜひ親子で見ていただいて、いろいろなことを語り合ってもらえたらうれしいです」と言葉を寄せる。