唐田えりか(C)エンタメOVO
カンヌ国際映画祭に出品された『寝ても覚めても』(18)やNetflixの「極悪女王」(24)で注目を集め、今年も『恋愛裁判』、『モブ子の恋』など出演作の公開が相次ぐ唐田えりか。常に挑戦を続ける彼女の最新作が、コンビニ店を舞台にした異色ホラー『チルド』(7月17日公開)だ。24時間、常に明かりがともり、同じ作業が繰り返されるコンビニ店で、主人公の店員・堺(染谷将太)やオーナー(西村まさ彦)が無気力な日々を送る中、静かに日常が狂い始め…。
本作で唐田が演じるのは、コンビニ店の新人アルバイト店員・小河。第76回ベルリン国際映画祭で国際映画批評家連盟(FIPRESCI)賞に輝いた本作について、「衝撃的だった」と語る染谷との初共演をはじめ、撮影の舞台裏や俳優としての思いを聞いた。
-舞台となるコンビニ店の異様な雰囲気と、それが静かに狂い始めていく物語がリアルで、背筋が寒くなりました。まずは、脚本を読まれたときの印象を教えてください。
脚本がとにかく面白く、「いい作品になる!」と確信できたので、絶対に参加したいと思いました。私自身も幽霊の出ないホラー作品は大好きですし、生きているのか死んでいるのかわからない主人公のキャラクターと、無機質なコンビニ店の組み合わせがマッチしていて。その中で起こる出来事に、どんどん予想を裏切られていく脚本がとても魅力的でした。
-唐田さんが演じる小河は、美容師になる夢を抱いて前向きに働く女性で、死んだ目をして単調な日々を繰り返す堺やオーナーとは対照的な存在感が、物語を際立たせます。演じる上でどんなことを心掛けましたか。
脚本を読んだとき、小河は登場人物の中で唯一、自分の意志をしっかり持っているキャラクターだと思ったので、それをきちんと表現することを第一に考えました。人の話を聞く場面も多いので、目が生き生きと映るように、相手から目をそらさず、そこから感じるものを大事にしようと。ただ、ホラー作品なので、劇中でのバランスについては、現場で岩崎監督と相談しながら調整していきました。
-主演の染谷将太さんや西村まさ彦さんとの共演はいかがでしたか。
お二人とも、私がこの仕事を始める前から活躍されていた方なので、ご一緒できることがうれしかったです。西村さんは、とにかく不気味な雰囲気が説得力満点で。ご本人は、控室では冗談を言ってみんなを楽しませてくださるチャーミングな方ですが、現場に向かう途中でどんどん空気が変わっていきました。それが背中からも感じられたので、私の方も自然と「話しかけるのは控えよう」という気になって。そういう不気味なたたずまいを表現できるのは、西村さんがこれまでのお芝居や人生の中で培われたモノなんだろうなと感じました。
-初共演となる染谷さんの印象はいかがでしたか。
私は学生の頃から染谷さんのお芝居が大好きで、今回初めてご一緒しましたが、二人がファミレスで和やかに会話するシーンで、染谷さんがお芝居とは思えないくらい自然に話していたのが衝撃的でした。後日、取材のときに「自分と役を切り替えて演じていた」とおっしゃっていたのですが、私にはその境目がまったくわからなくて。私も、そういう境地にたどり着きたいと、染谷さんのお芝居からいろいろと学ばせていただきました。
-堺と小河がファミレスで会話するシーンでは、染谷さんがほかのシーンとは別人のように生き生きとしていたのも驚きでした。
染谷さんのお芝居は、楽しそうなときも、わかりやすく楽しそうにするのではなく、せりふの間のちょっとした息遣いや一瞬のほほ笑みから「楽しい」という雰囲気が伝わってきていました。しかも、それを見ている私まで楽しくなってきて。そういう染谷さんのお芝居が、私のお芝居に対する考え方を広げてくださって、すごく勉強になりました。
-ホラーである本作以外にも、唐田さんは近年、幅広い作品や役に挑戦されていますが、何かきっかけがあったのでしょうか。
以前は、「おとなしい」、「おしとやか」という印象を持たれることが多かったのですが、実際の私の性格は真逆なんです。その印象が変わるきっかけになったのが、「極悪女王」です。あの作品で演じた(実在の女子プロレスラーをモデルにした)長与千種という役が、自分に近いキャラクターだったおかげで、自分自身を素直に表現できるようになりました。しかもありがたいことにそれ以後、挑戦的な役をいただく機会も増え、自分の色々な面を出せるようになってきました。
-それによって、お芝居に向き合う気持ちも変わってきたのでしょうか。
最近は、お芝居を大事にする気持ちが以前よりも高まり、そのために自分の時間を充実させることを心掛けています。自分自身に魅力がないと役も魅力的にならないので、自分が人生を楽しむことで、それが役に生きればいいなと思っています。具体的には、色々な人に会ったり、映画を見たりして、インプットする機会を増やすようにしています。おかげで、お芝居を通じて自分の中の新しい感情を発見する機会も増え、人生が豊かになった気がします。
-唐田さんは韓国でも芸能活動をしていますが、それもその一環でしょうか。
音楽や映画、テレビドラマなど、韓国のエンターテインメントは子どもの頃から大好きだったので、最初にお話をいただいたときは、単純にうれしかっただけでした。でも、韓国で活動するうち、徐々に「もっと学べることがあるはず」と考えるようになって。自分の成長にもつながるので、挑戦する気持ちは常に忘れずにいたいと思っています。
-さらに、本作は今年開催された第76回ベルリン国際映画祭で国際映画批評家連盟(FIPRESCI)賞を受賞したほか、「極悪女王」もNetflixで世界配信されています。唐田さんは海外との距離感をどのように捉えていますか。
ありがたいことに、初めてヒロインとして出演した『寝ても覚めても』で、二十歳のときカンヌ国際映画祭に参加できたことが、自分にとって大きな経験になっています。当時は、その重大さをわかっていませんでしたが、あとで振り返ってみると、すごい経験をさせていただいたなと。おかげで、映画が世界共通の芸術であることを早い時期から意識するようになりました。決して、カンヌに行きたいから作品を作っているわけではありませんが、参加する以上はカンヌに届くような作品になれば…という気持ちは常に持っています。その上で、結果的に参加できたら、苦労が報われるご褒美のような時間になるのかなと思っています。
-今回、ホラーに挑戦して、ご自身のお芝居について新たな発見はありましたか。
染谷さんのお芝居が本当にすてきで、学ぶことが多かったです。私はお芝居するとき、思わずギアが入りすぎたり、逆に緊張したりして苦労することがあるのですが、染谷さんはそういうことが一切なく、常に肩の力を抜き、せりふを自分のものにし自然体で発していました。それが衝撃的で。自分もそんなふうになりたいと、改めて思いました。毎回、現場で学ぶことはたくさんありますが、今回も染谷さんから学んだものを、いかに自分のものにして次の作品に生かせるか、考えているところです。
(取材・文・写真/井上健一)







