~無形の伝統文化の発展に貢献された工芸・芸能分野の8件が受賞~
公益財団法人 ポーラ伝統文化振興財団(理事長 小西尚子)は、顕彰事業の一環である『伝統文化ポーラ賞』の令和8年度各受賞者を決定しました。今年は優秀賞2件、奨励賞2件、地域賞4件の合計8件を表彰します。伝統文化ポーラ賞は、伝統工芸技術、伝統芸能、民俗芸能・行事など、無形の伝統文化の分野で貢献され、今後も活躍が期待される個人・団体に対し、更なる活躍と業績の向上を奨励することを目的としており、今年度で46回目を迎えます。昭和56年の第1回目から今年で延べ376名の方が受賞されることになります。なお、贈呈式は12月9日(水)に「ザ ・ペニンシュラ東京」にて執り行う予定です。

■表彰内容
1)優秀賞 賞牌・賞状・副賞(100万円)
永年努力精進され、優れた業績を残して今後とも一層の業績を挙げることが期待でき、後進の指導・育成においても継続的に努力し実績を上げている個人または団体。
2)奨励賞 賞状・副賞(50万円)
将来に向けて、大きな業績を挙げ、成長の可能性が期待できる比較的若い個人または団体。
3)地域賞 賞状・副賞(50万円)
地域において永年地道に努力され、優れた業績を残して今後も継続・発展が期待でき、後進の指導・育成にも努めている個人または団体。
■ポーラ伝統文化振興財団について
「本当の美しさは、内面の美や心の豊かさを伴ってこそ初めて実現する」という想いの下、豊かな社会と文化の向上に寄与すべく、1979年に設立。日本の優れた伝統工芸技術、伝統芸能、民俗芸能・行事などの無形の文化財を対象に、保存・伝承・振興の活動を行っている。
【ポーラ賞・ご取材に関するお問い合わせ】
公益財団法人 ポーラ伝統文化振興財団事務局宛(info@polaculture.or.jp)
〒141-0031 東京都品川区西五反田2-2-10ポーラ第2五反田ビル 3階
TEL 03-3494-7653/ FAX 03-3494-7597
10時~17時 (土日祝除く)
HP:https://www.polaculture.or.jp/
YouTube:https://www.youtube.com/channel/UCqoBFBt6U8EV1Egj-PH-LbQ/
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優秀賞:井戸川 豊「色絵磁器の制作・伝承」
■ 受賞内容について
かいわれ、ブロッコリー、トウモロコシやいちご――私たちの食卓にものぼる蔬果たちが白く優しい光に輝き、なにか特別なものに見えます。井戸川氏が描き出す作品からは、身近なものに宿る小さくも力強い生命感や個性を感じられます。
井戸川氏は東京都に生まれ、東京芸術大学に進学し陶芸を専攻。食と器の関係性を重視した浅野陽や青磁に色絵を組み合わせた独自の作風で国指定重要無形文化財保持者に認定された三浦小平二に学び、平成3年に同大学院を修了しました。絵付が生地の白磁から浮き立ちすぎないよう、モチーフが生地に染みこむような質感を求め、原材料や技術面での研究や工夫を重ね、モチーフを銀と釉薬の柔らかい光が包み込む「銀泥彩磁(ぎんでいさいじ)」と呼ばれる技法を確立しました。また、作品制作と並行し、平成9年から現在まで、東京芸術大学や鳴門教育大学、広島大学等で研究者として実験データの蓄積や新たな課題に挑戦するとともに、教育者として次代を担う若者たちへの指導、育成にも努めています。多年にわたるその活動が高く評価され、このたびの受賞となりました。

銀泥彩磁鬼灯文鉢(令和7年)
絵付け風景
■井戸川 豊(いどがわ ゆたか)プロフィール

写真提供:広島大学
昭和39年、東京都生まれ。平成3年、東京芸術大学大学院修了。浅野陽、三浦小平二に師事。平成12年、千葉県我孫子市に工房を開く。日本伝統工芸展等の公募展、企画展等に作品を発表、入選入賞を重ね、鑑審査を務める。平成27年、第62回日本伝統工芸展で高松宮記念賞、令和6年、第71回同展で日本工芸会保持者賞を受賞。平成9年から東京芸術大学等で後進の指導にあたり、平成19年より広島大学に勤務。現在、同大学院人間社会科学研究科教授。令和7年、紫綬褒章受章。
優秀賞:花柳 基「日本舞踊の伝承・振興」
■受賞内容について
花柳基氏は、日本舞踊花柳流の舞踊家として、古典から創作まで幅広く活躍されている日本舞踊家です。2歳より母・花柳秀に師事し、6歳からは人間国宝・花柳壽楽師のもとで研鑽を積み、伝統的な花柳流作品を基盤としながら、創作舞踊や新作にも意欲的に取り組んでこられました。
国立劇場主催公演や日本舞踊協会公演をはじめ、テレビ出演や海外公演など国内外で豊富な舞台経験を重ね、パリにて開催された「ジャポニスム2018」への参加や、東アジア文化都市2019関連事業への出演、さらに日印共同制作公演への参加などを通して、日本舞踊の魅力を世界へ発信されています。また、主宰する「基の会」や、流派を超えた同世代でつくる「五耀會」、「二人会」などでは、古典作品の継承と新作上演の両立を図り、多様な観客に日本舞踊の魅力を伝える活動を続けているほか、重要無形文化財「日本舞踊」保持者(総合認定)として後進の育成にも尽力されています。数多くの栄誉に裏付けられた高い芸術性と、伝統を未来へつなぐ柔軟な表現力を兼ね備えた、日本舞踊界を牽引する舞踊家のお一人です。

平成22年 第十一回基の会《保名》(国立大劇場)
平成22年 第十一回基の会《船弁慶》(国立大劇場)
■花柳 基 (はなやぎ もとい)プロフィール

日本舞踊花柳流の舞踊家。2歳より母・花柳秀、6歳より人間国宝・花柳壽楽師に師事。古典作品を基盤としながら創作舞踊にも取り組み、国立劇場、日本舞踊協会公演、海外公演など国内外で活動する。公益社団法人日本舞踊協会常任理事、花柳流花柳会理事、日本舞踊保存会理事、重要無形文化財「日本舞踊」(総合認定)保持者。紫綬褒章受章、芸術選奨文部科学大臣賞及び新人賞、東京新聞「舞踊芸術賞」、他多数受賞。日本大学芸術学部、日本体育大学非常勤講師。古典の継承と新たな舞踊表現の創造に取り組んでいる。
奨励賞:高橋 朋子「磁器の制作・振興」
■受賞内容について
高橋氏は北海道に生まれ育ち、沖縄県立芸術大学に進学し陶芸を学びました。当初は土器や立体造形に取り組んだものの、大学院で川原康孝の指導を受け、磁器に色絵と金属箔で加飾する技法を研究。平成13年に千葉県に工房を構え、以降、講師業と並行して制作を続けてきましたが、平成23年の東日本大震災を経験し、作陶一本で生きることを決意しました。
高橋氏の作品は、色味の異なる釉薬と金属箔を組み合わせ、焼成を重ねながら、三角や菱形、曲線形などで構成された幾何学文様で装飾されます。一片一片、人の手で貼り付けられていく文様は揺らぎや自由さを伴い、天空の月星にも似た箔のきらめきは、移ろいゆく時間や自然の鼓動を感じさせ、どこか異国的な情景や物語を喚起します。人々を魅了する独自の世界観の今後の展開が期待され、受賞に至りました。

金銀彩沓大鉢 游ぐ月(令和4年制作) 緑ヶ丘美術館蔵 撮影:久保佳正
■高橋 朋子 (たかはし ともこ) プロフィール

昭和49年、北海道生まれ。平成11年、沖縄県立芸術大学大学院修了。平成13年、千葉県八街市に開窯。数々の公募展、企画展等に精力的に作品を発表し、令和6年第71回日本伝統工芸展NHK会長賞、令和7年第17回現代茶陶展TOKI織部優秀賞など受賞多数。
奨励賞:中村 時蔵「歌舞伎の演技・伝承」
■受賞内容について
中村時蔵氏は、歌舞伎の名門・萬屋の家に生まれ、幼少より日本舞踊や歌舞伎の研鑽を重ねてきた女方です。令和6年、歌舞伎座『妹背山婦女庭訓』にて六代目中村時蔵を襲名し、伝統を受け継ぐ存在として活躍しています。『壇浦兜軍記』阿古屋、『嫗山姥』八重桐、『鏡山旧錦絵』尾上、『本朝廿四孝』八重垣姫等、大役を数多く務める一方、コクーン歌舞伎など、新作にも積極的に挑戦し、幅広い表現を追求しています。
役づくりでは、人物の心情を丁寧に掘り下げ、観客を作品の世界へ引き込むことを大切にしており、学び続ける真摯な姿勢にも定評があります。古典歌舞伎の魅力を現代へ伝えながら、実直に芸を磨き続ける姿は、多くの観客や関係者から高い信頼を集めています。

令和6年於歌舞伎座『妹背山婦女庭訓』 杉酒屋娘お三輪 (舞台製作:松竹)
■中村 時蔵(なかむら ときぞう) のプロフィール

写真提供:松竹
昭和62年生まれ。歌舞伎俳優、女方。中村萬壽の長男。平成3年6月、歌舞伎座『人情裏長屋』の鶴之助で初お目見得。平成6年、歌舞伎座『幡随長兵衛』倅長松で四代目中村梅枝を襲名。令和6年、歌舞伎座『妹背山婦女庭訓 三笠山御殿の場』お三輪で六代目中村時蔵を襲名。古典歌舞伎を軸に新作にも積極的に取り組んでいる。国立劇場奨励賞、優秀賞を多数受賞。令和2年、松尾芸能賞新人賞受賞。
地域賞:鴨川萬祝染 鈴染「萬祝の制作・伝承」
■受賞内容について
萬祝は、江戸時代後期に房総半島の漁師町で生まれた祝い着で、網元や船主が大漁や豊漁を祝い、催した宴の引き出物として漁師たちに配った揃いの柄の反物を着物に仕立てたものです。木綿地に藍染、背には鶴と家紋や船印が染め抜かれ、裾には吉祥模様、あるいは海に関わる図柄が色鮮やかに描かれ、海に生きる人たちの団結と誇りを表すものでした。かつては東日本の太平洋沿岸で盛んに制作されましたが、時代とともに廃れ、各港町にあった紺屋もなくなりました。
「鈴染」は、萬祝の伝統を受け継ぐ数少ない紺屋として制作を続け、さらには萬祝染めの今日的な振興を目指し、SNSでの発信や講演活動、新しいデザインの考案やワークショップの開催、萬祝デザインを取り入れたグッズ製作などに取り組んでいます。萬祝伝承のための活動が評価され、今回の受賞となりました。

萬祝長着(恵比寿大国)
■鴨川萬祝染 鈴染(かもがわまいわいぞめ すずせん)の紹介

大正14年創業の紺屋。二代鈴木榮二は「萬祝長着」、三代幸祐は「鴨川萬祝染」で県の伝統的工芸品に指定され、生地の準備から仕立てまで一貫製作を行う。四代理規は萬祝の今日的な振興を担い、様々な活動に取り組んでいる。
地域賞:清澤神楽保存会「清沢の神楽の保存・伝承」
■受賞内容について
静岡県静岡市葵区の清沢地区に伝わる「清沢の神楽」は、安倍川・大井川・瀬戸川流域に展開する、いわゆる「駿河神楽」の一つであり、とりわけ優美な芸能性によって知られています。現在は24の演目が伝承され、「五方の舞」「翁の舞(大助の舞)」等のほか、呪術性の高い「湯立」(ゆだて)や「反閇」(へんばい)など、多彩な舞を今日に伝えます。神楽は毎年10月、地区内の各神社にて奉納されます。秋風がはこぶ笛や太鼓、鈴の音に包まれた境内では、多彩な面や採物(とりもの)を用いた舞が繰り広げられます。清澤神楽保存会は、地域外での公演やテレビ出演、民家で夜通し奉納されていた神楽を再現した「清沢神楽大祭」の奉納とバスツアーの企画、PR動画の制作などを通じ、広く神楽の魅力を発信するとともに、定期練習による後継者育成にも力を注いでいます。

湯立神事の様子
松竹梅の舞
■清澤神楽保存会(きよさわかぐらほぞんかい)の紹介
静岡市葵区清沢に伝わる民間神楽(里神楽)である「清沢の神楽」は、昭和42年、県指定無形民俗文化財に指定された。昭和52年に結成された清澤神楽保存会は、地域文化を未来へ受け継ぐ多彩な取り組みを推進する。
地域賞:八女福島の燈籠人形保存会「八女福島の燈籠人形の保存・伝承」
■受賞の内容について
国指定重要無形民俗文化財の「八女福島の燈籠人形」は、江戸時代中期の延享元年(1744)、福島八幡宮の放生会に際して奉納されたことにはじまり、約280年にわたり受け継がれてきました。毎年秋分の日を含む3日間、三層構造の豪華な屋台で燈籠人形が上演されます。人形を操る「人形方」、唄や三味線、鼓、太鼓といった音楽を担当する「囃子方」、着付けを担当する「衣装方」など、総勢約50名が息を合わせて舞台を支えます。なかでも、左右の楽屋から人形を自在に操る「横遣い」や、一瞬で衣裳を替える「素抜」(すぬき)など、高度な技法が見どころです。保存会では、公演だけでなく、子ども教室や学習会、バックヤードツアー、大学との連携による背景幕の修復・制作などにも積極的に取り組み、地域の人々とともに伝統を未来へ受け継ぐ活動を続けています。

舞台左右の楽屋から人形を操る横遣い操作の様子
■八女福島の燈籠人形保存会(やめふくしまのとうろうにんぎょうほぞんかい)の紹介

昭和32年に設立された保存会は、福岡県八女市に伝わる国指定重要無形民俗文化財「八女福島の燈籠人形」を継承する保存団体である。伝統的な技術の継承や後継者育成、地域文化の振興等に取り組んでいる。
地域賞:松竹 喜生子「八重山上布・ミンサーの制作・伝承」
■受賞内容について
国の伝統的工芸品に指定される八重山上布は、苧麻の繊維から糸を積み、藍や植物染料で染め、絣技法で織り上げられた夏の麻織物です。苧麻の栽培から染め、織り、仕上げまで、すべての工程を人の手で行います。「いつのよも(末永く幸せに)」の意の絣柄(五つと四つの四角形で構成される織り文様)が特徴の八重山ミンサーとともに八重山諸島ゆかりの織物として親しまれています。
松竹氏は、高校を卒業後、一旦故郷を離れましたが、八重山上布に魅せられ20歳で帰郷。八重山上布技術者養成講習会を受講し、石垣英松や新垣幸子らの指導を受けて研鑽を積みました。平成5年に伝統工芸士に認定され、染織家として活躍、海水を用いて絣の色を定着される「海晒し」を復活させました。平成26年県指定無形文化財八重山上布保持者となり、様々な要職を務め、伝統工芸の振興と保護、後進の指導育成に努めています。

地元の染料・紅露で染めた絣模様の八重山上布
織作業の様子
■松竹 喜生子(まつたけ きみこ)プロフィール
昭和33年、沖縄県生まれ。高校卒業後、京都で就職したが、20歳で帰郷。八重山上布に魅せられ、石垣英松、新垣幸子らに師事し研鑽を積む。八重山上布の「海晒し」を復活させ、平成26年、県指定無形文化財八重山上布保持者に認定。
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