極上ステージマラソン!RAM RIDER~木根尚登~大槻ケンヂ
フェスならではの醍醐味といえば、ジャンルに関係なく様々な音楽に触れられること。特に今回の『YATSUI FESTIVAL』は音楽/アイドル/お笑いが一同に介する、ある意味ジャンルレスの極みと言ってもいいフェスだけに、それぞれのステージで新たな出会いをしたオーディエンスは多かったはず。その音楽部門の中で、再び戻ったduo MUSIC EXCHANGEの中盤のラインナップは凄かった!何しろ、最新鋭のエレクトロ・ミュージックを奏でるRAM RIDERからTM NETWORKの木根尚登への流れは、他のどんなフェスにも負けてない最高のジャンルレスぶりだ。しかも、RAM RIDERのステージにはスペシャルMCとしてバカリズムも登場!「RAM RIDERを歌に集中させるため、僕が代理でMCをやります。次の曲は、『No Continue』。ライブ一体感を出すため、サビの一部分を一緒に歌いましょう。歌詞は、“ねえ、タイムマシーンはまだ── ” ?」。あの淡々とした独特の語り口で“影アナ”を務め笑いを誘うバカリズムとRAM RIDERバンドの融合もまた、お笑いと音楽をこよなく愛するやっつんが作る『YATSUI FESTIVAL』でしか実現しないはず!
そのRAM RIDERは、やっつんとあのIMALUが結成したユニット・SUSHI PIZZAの『マイティDISCO』のプロデュースも手がけた関係の深い存在だけに、今回の『YATSUI FESTIVAL』では外すことができない人選だろう。そんな彼のステージ上は、暗闇の中で顔や手足は見えず、メンバーの身を包んでいる衣装にあしらわれた蛍光の光がうごめく異様な光景──。そのレーザーかLEDのようなきらめきが、生演奏のギターとエレクトリック・サウンドに合わせて躍動する姿はじつに幻想的。そして、宇宙を駆ける光の光線のごとく広がり、収縮し、またさらに大きくスケール感たっぷりに広がっていく音色は、“AUDIO GALAXY”というイメージをまさに地で行くような感触だ。そんなきらびやかで近未来的な雰囲気のRAM RIDERから、鍵盤の弾き語りというシンプルなスタイルで臨んだ木根尚登へと繋がっていく好対照ぶりも面白い。
もはや何の説明もいらない現代J-POPの礎を築いた先人・TM NETWORKのメンバーである木根尚登は、やっつんとは知り合って10年近くの仲になるという。やっつんの意外すぎる&超幅広い交友範囲にあらためて感服しつつ、TM NETWORK作品の中でもバラード系の楽曲でファンの心に強い印象を残してきたメロディ・メイカーが、そのTM NETWORKの名作『Self Control』収録曲の『Time Passed Me By』を楽曲を目の前で弾き語る姿は、80年代に青春時代を過ごしてきた筆者にとっては感涙ものだ。
桜の木の下で、君の帰りを待ってる──。TM NETWORKという同じ船に乗るあの“親友”に捧げた『春を待つ』もまた、“彼”との関係をあらためて振り返りながら聴くと感動を誘われる。美しいピアノの調べとメロディは、本当に、本当に、グッと来た……。
ジャンルレスなラインナップはまだまだ続く。筋肉少女帯の大槻ケンヂは、前述のケラなどと共にナゴムレコードの黄金時代を支えた現代ロックの異端者にして、文学賞も受賞するなど小説家、文筆家としての地位も切り開いた才気あふるる人物。そんな彼がこの日はアコースティック・スタイルで登場し、筋少の『人間のバラード』、『死んでゆく牛はモー』、 筋少と並行して活動するバンド“特撮”の『揉み毬』などを、叫ぶようにして歌い上げるあの独特なボーカルで披露していく。その『死んでゆく牛はモー』というタイトルしかり、ソファー式のマッサージ機の中に入っているふたつの球体、通称“揉み毬”を主人公にした物語しかり、大槻ならではのユニークな視点で描いたその世界観は笑いも誘われるが……。人間にしても何にしても全てのものはいつか亡くなっていく、もっと言えば人生の儚さや切なさや悲哀が、大槻一流のユーモアセンスの中から浮かび上がってくる。ショーマンシップたっぷりなMCでも楽しませながら、異様な迫力でオーディエンスを自身の世界観へ深く引き込む強烈な印象のステージだった。
ハンバートハンバートと渋さ知らズのオルタナティブな存在感
大槻氏のライブの余韻を引きずりながら、duo MUSIC EXCHANGEからダッシュ!その後も観たいアクトが絶え間なく続いたので、イベント後半は各会場を疾走してはしごする分刻みのスケジュールを敢行(笑)。まず駆け込んだのは、O-EAST。ハンバートハンバートが奏でるバイオリンの調べと歌声のハーモニーが、フロアを埋めたひとりひとりのオーディエンスを包み込んでいる。某TVCMに起用された『アセロラ体操のうた』など、最近ではお茶の間にもその音色を浸透させている彼らの曲は、どれも深い味わいを感じさせるものばかりだ。
アコースティックギター、ハーモニカ、そして佐野遊穂と佐藤良成の男女混声が奏でる言葉ひとつひとつが、ときにはほのぼのと、ときに重々しく、切なく、かと思えば叙情的に、明るく……。シンプルなサウンド・スタイルの中にこのふたりにしか生み出せない強い個性を綴った、聴き心地優しく、それでいて胸の奥まで深く響くステージから、O-WESTへダッシュする。
そしてそこでは、赤いケープをまとった女性と、顔にペイントをほどこしたスキンヘッドの男性が、リズミカルな音色に包まれながら妖しく舞う──。そう、それもまさしくこの“渋さ知らズ”にしか生み出せない強烈な個性だ。音楽界や演劇界、アート・シーンなど多方面から人材が参加しメンバー数は100人を超えると思われる一大表現者集団は、多彩な出演者が揃った今回の『YATSUI FESTIVAL』の中でも特に強烈な個性派と言っていいだろう。
この日のギター、ベース、ドラム、キーボード、パーカッション編成によるセッションは、厳かな響きを鳴らし続けたかと思えば一転、スカ風の超昂揚的な演奏でフロアの人波を揺らし、その変化に富んだサウンドに合わせてパフォーマーも様々な動きでステージを彩る。この次はどうなるんだろう……??先の展開が予測不能で一瞬も見逃すことができないステージと、心と身体を踊らせるプリミティヴなグルーヴは、思わず瞑想状態になりそうなぐらい恍惚的な空間だった。
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