映画『究竟の地 岩崎鬼剣舞の一年』が、本日2月25日(土)に公開される。
岩手県北上市岩崎地区に伝わる郷土芸能「鬼剣舞」を取材したドキュメンタリー映画だ。
*究竟は「くっきょう」、鬼剣舞は「おにけんばい」と読む。
鬼のような面を着け、扇や剣を手にした踊り手が、笛や太鼓に合わせて、
地面を踏みしめながら踊るのが鬼剣舞である。
踊り手は8人が基本だが、演目によっては1名から8人で踊るものもある。
などなど、ネットで鬼剣舞について調べると、いろいろな説明が書かれている。
けれど、鬼剣舞について何も知らなくてもこの映画は愉しめる。
なぜならこの映画は、ひとつの伝統芸能の記録映画ではないからだ。
重要なのは、岩崎鬼剣舞が、北上市岩崎地区で1300年以上も
綿々と受け継がれてきたというこの事実である。
踏襲してきたのは、いわゆる踊りのプロではない。
踊りをある種の、〈お稽古〉と考えている人でもない。
市井の人たちが、いうなれば〈クラブ活動〉のような感覚で踊っているのだ。
岩崎地区では、小学校に入学する前から、踊りを習っている子どもも多い。
幼稚園や保育園で園児に鬼剣舞を教えているのだ。
小学校に入ると、上級生や大人から鬼剣舞の踊りや笛、太鼓などの手ほどきを受ける。
中学校や高校に進学しても、社会人になっても鬼剣舞を続ける人が大勢いる。
いずれにせよ、岩崎地区で生まれた者は、必ずどこかで鬼剣舞を習う。
「素敵な文化が継承されているなあ」と思うと同時に、
東京都葛飾区で生まれ、小学3年から千葉県の新興住宅地に住んでいる私には、
地域全体で同じ踊りを踊る風習があることが不思議でならない。
小学校の運動会ではダンスを習い、中学校の運動会では花笠音頭を踊らされた。
うちの子どもは、小学校の運動会でよさこい踊りを習った。
夏の盆踊り大会では、あたり前のように東京音頭が流れてくる。
千葉県民なのに東京音頭や山形の花笠音頭、高知のよさこい踊りを踊る。
おそらく都心に住む人の大半が、うちの家族と同じような経験をしていると思う。
岩崎地区で生まれた人も、よその踊りを踊ったり、
EXILEのダンスに興味を持つ人もいるかもしれない。
けれど、岩崎地区に住む人々は老若男女関係なく、
岩崎鬼剣舞をまるで共通言語のように共有している。
それは、私が生まれ育った地域や環境では考えられないことだ。
三宅流(みやけ・ながる)監督は、一年間ひとりで北上市に住み、岩崎地区に通い、
岩崎鬼剣舞を舞う人々を取材・撮影し、この作品を完成させた。
ある年のお盆に、初めて岩崎鬼剣舞と出会ったのがきっかけだった。
以下、岩崎鬼剣舞に興味を持った理由を、三宅監督の手紙から抜粋する。
「岩崎鬼剣舞による盆供養の舞、儀式。踊りの勇壮さとユニークさに強く惹かれたが、
さらに強く惹かれたのは舞の後の飲み会だった。
若い舞い手もベテラン、師匠たちも、奥さんたちも、子供たちも、
立場や世代の垣根を超えたコミュニケーションの磁場が発生していて
その雰囲気がとても魅力的だった。
鬼剣舞の人たちは自分たちの芸能にプライドを持ちつつも、
他の芸能に対する関心も高く、神楽や鹿踊り、
さらには歌舞伎や鼓童、ミュージカルなどについても造詣が深かった。
土着に閉じこもるのではなく、他者に対して常に開かれている。
そんな彼らに魅力を感じ、彼らのドキュメンタリーを撮ろうと思った」