映画が完成したのは2008年。
その翌年、山形国際ドキュメンタリー映画祭や恵比寿映像祭などで上映された。
だが、興業ベースにはのらなかった。
「タイトルが読めないので変えるべきだ」という意見もあった。
「地味だ」と指摘する人もいたと聞く。
たしかに、ハリウッド映画のような派手さはない。
しかし、伝統芸能にはまったく関心がない私でも、この映画を大いに愉しめた。
そのいちばんの理由は、前述したように、
この映画がひとつの伝統芸能を記録したものではないからだ。
では何を写したものなのか。
1300年もの間に大勢の人がこの世に生を受け、家庭を作り、死んでいった。
人が骨になっても、鬼剣舞は受け継がれていった。
タイトルにある「究竟は、究極と屈強の意味がある」そうだ。
岩崎地区に住む老若男女が、母校の小学校に集まり、踊りを舞うシーンがある。
1300年続いてきた鬼剣舞を、笛や太鼓に合わせてみんなで踊るのだ。
自分が住む世界とはかけ離れた出来事なのだが、もっとも感動したシーンだった。
三宅監督が選んだテーマは鬼剣舞だが、主人公は鬼剣舞ではない。
〈過去〉と〈未来〉をつなぐために〈今〉を生きる人々が、この映画の主人公なのだ。

  


昨年10月頃から東北を中心に、この映画が上映された。
東北人の中にも鬼剣舞を知らない人がたくさんいたという。
それでも私と同じように、この映画を喜んで観てくれたそうだ。
その理由は東北の温かさ、人と人とのつながり、人間の強さという普遍的なものを、
この映画が描いているからだと思う。 

   

 









まもなくあれから1年。
今だからこそ、東北が舞台のこの映画を観る意義があるような気がする。
この映画を観て、人と人とがつながる力の大切さを、もう一度確認したい。
〈過去〉と〈未来〉をつなぐために、家族で観ることをすすめたい。

   

 

 








【上映情報】
『究竟の地 岩崎鬼剣舞の一年』 
2月25日(土)より、ポレポレ東中野にてロードショー。
12:50と18:00の1日2回上映。
初日のみ、振る舞い酒と12:50の回上映後、岩崎鬼剣舞による一人加護の演舞がある。
期間中、ゲストトークあり。詳細は劇場まで。 

東京五輪開催前の3歳の時、亀戸天神の側にあった田久保精肉店のコロッケと出会い、食に目覚める。以来コロッケの買い食いに明け暮れる人生を謳歌。主な著書に『平翠軒のうまいもの帳』、『自家菜園のあるレストラン』、『一流シェフの味を10分で作る! 男の料理』などの他、『笠原将弘のおやつまみ』の企画・構成を担当。