最近、各種メディアでとりあげられ話題を呼んでいる“360°book”をご存知だろうか? 詳細は追って紹介するとして、この本、まったく新しい発想から生まれた一冊。きっと目にしたら大人から子供までが手にしたくなってしまう。
生み出したのは建築家/デザイナー/エンジニアとして活躍する大野友資さん。
一見すると本とは縁遠い肩書きの持ち主だが、彼は現在、東京ミッドタウン・ガーデン内にある21_21 DESIGN SIGHTで開催中の企画展「単位展 あれくらい それくらい どれくらい?」にも参加。
こちらで発表したグラフィックデザイナーの岡本健さんとの共同制作による展示「ことば の おもみ」も話題を集めている。大人から子供の心にまで届くといっていい大野さんの作品。これからさらに飛躍が期待される若き才能の創作世界を紹介する。
史上初といえる“360°Book”は建築家だったから出来た
“360°Book”は、これまでにないビジュアルを可能にした驚くべきブックレットとでも言おうか。閉じた状態ではごくごく普通の一冊の本。それが開くと大変身!
レーザーカッターによって総40ページの平面の1枚1枚には微妙に違うモチーフが描かれているのに、本が360°の方向に開かれたとき、不思議とひとつの立体的なジオラマ世界が現れるのだ。しかもページごとに見ても、見る角度によっても、そのシーンは次から次へと変化。すべてをぐるりと見回したとき、ひとつのストーリーが完結するような感覚になる、ほんとうに今までなかった二次元で三次元を生み出し表現した新感覚の本といっていい。こんな本をどうやって出版とは無縁の大野さんが生み出したのか? いきさつを本人はこう明かす。
「所属する建築デザイン事務所がコンピューターソフトを使った建築のデザインや施工を積極的に取り入れているところで。たとえばコンピューターソフトを使い、モニター上で建物を設計して立体に再現し、それを最後は実際のモノに落とし込む。
そんな作業をこれまで仕事の中でやってきました。そのうち、こんな気持ちがわいてきたんです。“この技術で建築という大きなサイズではなく、手のひらサイズぐらいのプロダクトも作れないか”と。同じ頃、病院などでおなじみのCTスキャンのように、あるモノを1枚1枚スライスして断面を再現できるソフトも使うようになっていて。
ある空間をスライスで再現することもしていました。これらの建築家の仕事で養った技術をもとに、“立体という三次元を、平面という二次元で再現してみたらどうか?”という発想に至り、生まれたのが“360°Book”です。実は当初、本にする意識はまったくありませんでした。
簡単に言うと、“360°Book”は、40枚の平面の絵があって、それを360°に並べるとひとつの立体物が浮かび上がる。並べたとき、単純に思ったんです。“これって折りたたむことができれば、本のように開いたり閉じたりできるな”って。だから、後付で本の形になった。
“建築家なのにどうして本を作ったんですか?”とよく聞かれるんですけど、違うんです。最初に本という器があったわけではない。先にまず建築模型に近い立体物を作って、それを平面で表現したら、その形が本の体裁だった(苦笑)というのが実際の経緯です」