最初に生まれたのは誰もが知っている「白雪姫」

こうして誕生した360°Bookの記念すべき第1作は「SNOW WHITE」。そうみなさんご存知の“白雪姫”をモチーフにしたものだ。
 

  

「誰もが知っているものであることで、それがいままでと、どう違う形で表現されているか?という点に注目してくれたらいいなと思っていたんです。それで作業をはじめたら、モニター上なのですが、納得のものが出来た。それで次の日、レーザーカッターで切り出してみることにしたんです」

完成した作品をみたときは素直に感動したそうだ。
 

  

「まさにイメージ通りなんですが、それ以上といいますか。データとしてモニター上で見るのと、実物を見るのとではやはりまったく違う。絵の切り出しなど加工はほとんど機械がやりますから、ボタンを押したら次の瞬間完成していたような、ポッと出来てしまった不思議な感覚もあって。自分の求めていた新しいものが出来た手応えがありました」


イマジネーションが膨らむ夢のある本

この本のすばらしさをあえてひと言で言うならば、人間の想像力を信じていることかもしれない。現在まで未発表のものも含めると、「MERRY CHRISTMAS」「富士山」など13作品を数えるが、いずれも見る側のイマジネーションを膨らませる世界が表現されている。立体を構成する1枚1枚の平面の絵をみていっても、全体をぐるりと見回していっても、各人が自由に自分のストーリーを紡いでいける楽しさがある。
 

  

「僕の中では、言葉のない本でもあるので、ストーリーはシンプルでわかりやすいものにするか、もしくは「富士山」のように特に設けないかのいずれかにしています。見てくださった方が、どこから見ても自分でストーリーを紡げるような構成を心がけています。ですので、最初の1ページからみてくださっても、最後の40ページからみても構いません。360°にしないで、パラパラ漫画のように見て楽しんでくださってもいい」

角度や視点を変えるだけでまったく見えてくる世界が違う、まるで万華鏡をのぞいているようなワクワク感と発見がある。

「必ず360°つながっている要素があること、空間の連続性があることにはすごくこだわっています。目指すは“ずっと見ていることができる本”。たとえばお母さんと子供がこの本を手にしながら、“ここに何がいる”とか“こっちにも何かいるね”みたいな語り合える、そんな人と人のコミュニケーションが生まれる本になってくれたらうれしいですね」

こんなどこか人の温もりが感じられ、温かい気持ちになる夢のある本を、実現可能にしたのが最新のテクノロジーというのにも驚く。

「キャラクターの配置や位置、見え方、前後の空間の取り方、その空間の見せ方などすべて精密に計算しています。たとえば1枚1枚見ていって、あるモノの後ろから突然ちがうモノが現れたら、それは偶然ではありません。すべて計算によるもの。これは3Dソフトがあるからできることなんです。たとえば「富士山」にはものすごい細かい形の雲や鶴の細い足が表現されていますけど、これもレーザーカッターの技術が可能にしたこと。手作業ではなかなか作ることは難しい。手作りではできないというのも、この本の大きなコンセプトです」

ただ、機械だからといって簡単にできるものではない。「どういう図柄にして、それをどう構成して配置して表現して見せるのか? そこに1番時間を費やす。クリエイティビティの作業という意味では、ほかのアーティストと変わらないのではないでしょうか」