運良く行列はできてない。しかしカウンターはもちろん満席だった。
壁際の立ち席もうまりつつある。今宵もだめか、と諦めかけた瞬間、
「こちらへドーゾー」ときれいな姉さんに一番奥の立ち席に誘導された。
カウンターの中には焼き場に一人、串を出す係が一人、洗い物兼ドリンク係兼注文聞く係が二人。
合計四人ぽっちであちゃこちゃから飛び交う、
「レバ刺し、なんこつ、おっぱい、ほーでん、ちれだけタレで!」
などという声を一つ残らず拾い上げ、炭をひっくり返しながら、
串はテンポ良く焼かれ、瓶ビールの栓がシュパシュパと空けられる。
まるでもつ焼きファクトリーだ。
飲んで食べる方もリズム感というものをおのずと身につける空間。
酔ってくだをまいてる場合ではない。
四人の精鋭たちは、「らっしゃい」「飲み物は」「はいよ」「まいど」のほぼ四ことしか発しない。
おそろいのカッパTシャツがキュートだったとしても、余計な愛想はうらないスタンス。
戦場のような忙しさだから、というわけではなく、だってしゃべる必要がないから。
そんなドライな感じに、ますますこちらもリズム感で返すべきだと居住まいをただす。
心にタンバリンを仕込み、ンチャンチャと叩くくらいのテンポで、
「瓶ビール(ンチャ)、なんこつレバ刺しかしら(ンチャ)一本ずつで!(ンチャチャチャッ)」
と注文する。声をかけそびれると永遠に店の壁と一体化してしまう危険がある。
大縄跳びに入るタイミングと同じだ。全力で、空気を読め。
でもって、ここのレバ刺しは天にも昇るほどおいしかった。
ぷる・くにゅ・とろ、と口のなかではじける。
タレで食べてまたおいしい。塩で食べてまたおいしい。
ちょい焼きで食べてまたまたおいしい。