ナンコツもカシラもトロもこぶりだがじつに上品な焼き加減。かつ新鮮。
七割り方が、ンチャンチャとリズムをきざみながら、泥酔することなく串をほおばり、
酒を流し込むというグルーブのなかで、ひときわ声が通るおっちゃんがいた。
カウンターにゆったりと座りのどかににほろ酔っている。
どうやら仕事がらみで出会った若造二人を馴染みの店に連れてきた、という流れらしい。
「私はもうデザインはやらないの。運営側の人間だからね。
部長から『娘をなんとかコネで入れてくれ』なんてお願いを聞いたりね。
さすがにもうそういうのはあれだけど、
会社ってのはさ、目指すべき方向がひとつじゃなきゃダメなわけ。
誰かがそのひとつを、明確にしなくちゃならないわけ。広告も今は世知辛いしね」
若造二人も広告関係を志すのか、「そうっすよね」と言いながら、
空気を読む世代らしく相づちの合間にもコンスタントに飲食することを忘れない。
「私はもう63歳だけど、本当はあれよ。会社って60過ぎてもまだ働きたいって人がいたら、
解雇しちゃいけないんだよ。定年っていったってまだまだ元気なわけだし」
突然、おっちゃんがいいわけじみてきた。
うちの父ヒロシとおんなじだ。
とっくに還暦を超えているが、いっこうにサラリーマンを卒業する気配がない。
あとがつかえてる、と言いたい。
「お酒もうひとつ」とおっちゃんが追加したのに、気をきかした若造が、
「こちらもビールとししとうカシラとトロ、全部たれで三本ずつ」といそいで注文する。
飲まず食わずで席を占拠するのは罪だと早くも察知しているようだ。