『しあわせのパン』(12)、『ぶどうのなみだ』(14)に続く、大泉洋主演の〈北海道映画〉シリーズの第三弾『そらのレストラン』。
道南のせたな町で循環農業に取り組む自然派農民ユニット「やまの会」の人たちをモデルにした本作で、大泉が演じたチーズ職人・設楽亘理の仲間のひとりでもある、米・大豆農家を営む石村甲介を演じたマキタスポーツさん。
広大な大自然で役者仲間たちと撮った本作は、どうやらマキタさんにも大きなものをもたらしたよう。
彼の言葉に触れると、あなたもたぶん、せたな町を訪ねてみたくなるはずです。
『しあわせのパン』では洞爺湖を舞台に「パン」作りに励む「夫婦」の姿を、『ぶどうのなみだ』では空知を舞台に熟成する「ワイン」と重ねて「家族」のありようを浮き彫りに。
そんな〈北海道映画〉シリーズの最新作『そらのレストラン』は、さまざまな食材を包み込む「チーズ」に魅せられた男を主人公に、濃厚な「仲間」の絆を描くものだが、大自然を背景に映し出されるのは本当に仲のよさそうな男たちの姿だ。
いったいあの自然な関係はどうやって築き上げられたのか? そこに隠された微笑ましいエピソードを入口に、マキタスポーツさんに本作の撮影を振り返ってもらいながら、人生をより楽しむためのコツを教えてもらいました。
ロケーションが北海道の絵葉書的世界
――『そらのレストラン』を観て、ロケ地になった北海道のせたな町に行ってみたいなと思いました。
そうですよね。せたなは僕も全然知らなかった町ですけど、いいところでしたね。
――どんなところがよかったんですか?
ロケーションが北海道の絵葉書的世界と言うか(笑)、内陸の山梨県出身の僕からしてみたら別世界ですよね。
広大な牧場と丘陵の先に海があるあの自然な感じがよかったですけど、とは言え、撮影をした9月ごろはまだしも、冬になると本当に寒いところなので、ここで農業を営むのは大変だろうなと思いました。そういうことに思いを馳せましたね。
僕らは仕事でちょっとだけ行って去っちゃうけど、そこには実際に根を下ろして生きている人たちがいるわけですよね。
だから、こういうところで暮らすということはどういうことなんだろう? ということも考えたりしながら、自分が演じた米と大豆の農家の石村甲介という人のバックボーンを想像してみましたね。
自然派農民ユニット「やまの会」の人たちがモデル
――マキタさんが演じられた甲介や大泉洋さん扮する酪農・チーズ職人の設楽亘理、高橋努さんが演じたトマト・野菜農家の富永芳樹も全員、実際にせたな町で「安心・安全な食のあり方」を追い求めている自然派農民ユニット「やまの会」の人たちがモデルになっているんですよね。
そうです。ですから、「やまの会」の人たちとは早速、クランクイン初日に食事会をしたんですけど、みんな言葉が少ないんですよね。
逆に僕らは、(大泉)洋さんにしても明るいし、僕もベラベラベラベラいろんなことを喋っていて(笑)。
ただ、寡黙なからも、少しずつ話をしていくうちに、僕の役のモデルになった冨樫さんという方が実際に酷いアトピーで悩まれていたことも分かってきたんです。
――あれは実際のエピソードだったんですね。
そうなんです。それで、東京で音楽活動をしていたのに、それをやめて農業を始めることになったことなどもだんだん分かってきて。
大人しいし、特に多くを語るわけではないんですけど、僕も音楽活動をするから、どんな想いで夢を諦めて、農業に打ち込んでいるんだろう? と考えたりもしました。
それに、彼らが作っている農作物もひとつの作品ですから、それを食べた時の美味しさや食べ物に込められた熱みたいなものを感じた時は、もうアーティストじゃん、とも思いましたね。
――そのモデルになった冨樫さんという方は「パンダ納豆」という納豆なども作ってらっしゃるんですよね。
そう。納豆とか大豆や米ですけど、こだわりがすごいですよね。
ほかにも高橋努の役のモデルになった、ほったらかしの状態の畑でトマトなどの作物を育てている曽我井さんという人もいて。
彼らとは撮影が終わった後も交流があって、いまも野菜を送ってくださるんですけど、曽我井さんが育てている野菜は大量生産とか効率、合理化といったものとはまったく違う思想で作られているものなので、東京などで流通している野菜とはちょっと次元が違うんですよね。
見た目は悪いですけど、ただ味はしっかり濃厚で。もちろんそれは、無精で畑を耕さないということではなく、グルっと1周して辿り着いた農法だったりするわけじゃないですか。
逆に、僕は東京で、わりと合理化した芸能のお仕事をしているので、僕がまったく知らなかったせたなという町で、僕とは全然違う活動をしている人たちがいるということが知れたのはちょっと面白かったな。
都会の生活のパターンの中にいると、たまに田舎にきても「田舎はいいな~」と言っておしまいじゃないですか。
でも、彼らはその土地を選んだり辿り着いて、そういう農業に従事し、売り物になる農作物を作っているわけですけよね。
しかも、その農作物に込められているものには、実はすごい情報量があるなと思ったので、そういう人や農作物に触れられたこと自体がよかったですね。
今回はそれを、映画という形でひとつの物語として見せていますけど、僕はそれ以上のものを感じた、すごく印象深い仕事でしたね。
――現地では、農作業も実際に経験されたんですか?
そういうシーンのためにちょこっとだけやりましたけど、実際にちゃんとやったわけではないですから、これをやり続けるのは大変だなってすごく思いました。
――でも、佇まいも雰囲気も本当に農家の方という感じがしました(笑)。
まあ、そうなんですよ。僕はわりと第一次産業側なので(笑)。
港町に行っても地元の方たちに溶け込むし、こういう農業の地域に行っても牧畜のおじさんに見える。もともとお百姓さん顔なので、どうやらハマるらしいです(笑)。