大阪ローカルネタと声優さんの"声芸"が楽しい一本!
『僕の妹は「大阪おかん」』
昨今のショートアニメ隆盛を語る上で、キーパーソンの一人として、石ダテコー太郎(石館光太郎)監督は、決して欠かせないクリエイターだと思います。
菅原そうた監督との共作であり、代表作の一つである『gdgd妖精s』や『直球表題ロボットアニメ』、『てさぐれ! 部活もの』といった数多くのショートアニメを世に送り出している石館監督ですが、この『僕の妹は「大阪おかん」』も、そうした作品の一つ。
このアニメは、大阪府民のローカルな"地域あるある"ネタをまとめた『大阪ルール』『大阪おかんルール』という本を原案としており、大阪で暮らす人にとっては極々当たり前のことであっても、府外の人間から見ると少しばかり奇異に見えてしまう事象をアニメキャラクターの言動を通しておもしろおかしく浮き彫りにするという……簡単に言うと、"アニメ版『秘密のケンミンSHOW』"といった趣の作品です。
大阪のローカルなネタを連発しまくる主人公、石原浪花役には阿澄佳奈さん、浪花の兄であり、彼女の"大阪おかん"っぷりに戸惑いまくる東京人の京介役には白石涼子さん、京介に密かに思いを寄せる楓役には井口裕香さんをキャスティング。非常に豪華な声優さんたちが役を演じていらっしゃいます。
また、本作の個性的なポイントが、この三人以外の全ての脇役……所謂"モブキャラ"を全て井口裕香さんが演じている点です。つまり、おじさんもおばさんも子どもも、皆、井口さんが声や話し方を変えて演じているのです。井口さんの声優ならではの"声芸"は一見の価値ならぬ"一聴"の価値あり!
ミニマムな構成のショートアニメだからこそ、声優さんにモブキャラを全て担当させるなんて無茶振りができますし、それが笑いになるという。これまたショートアニメらしいアイデアに溢れた作品です。
個人的な話で恐縮ですが、私はこの作品が好き過ぎて実際に大阪に足を運び、劇中に登場したローカルネタの数々をこの目で確認してきました。生で目撃したスーパー玉出やモータープールのインパクトは凄まじかったです……。
こだわりの方言とアニメーションにご注目ください!
『波打際のむろみさん』
『週刊少年マガジン』誌上で連載されていた人外系ラブコメ(?)作品をアニメ化した『波打際のむろみさん』も非常に地域性豊かでユニークなショートアニメ。
本作は、福岡県に住む普通の男子高校生、向島拓朗と、彼が釣り上げた人魚のむろみさんを中心に、鳥人ハーピに海竜のリヴァイアサン、イエティにツチノコ、果ては宇宙人などなど、次々に人外キャラクターが登場する、とにかく楽しくかしましい作品です。
人間の常識をアッサリと逸脱する人外キャラクターの言動が笑いどころで、そんな濃いキャラクターたちに加えて、本作のカラーを決定付けているのが劇中で使用される方言の数々。
福岡県が舞台ということで、登場するキャラクターたちは博多弁や北九州弁を使いこなすのですが、この方言の演出には作り手側の強いこだわりがあるようで、むろみさん役を演じる主演の田村ゆかりさんを始め、出演声優には福岡県出身者が数多くキャスティングされています。その為、方言の表現が非常に豊かで自然なのです。
アニメの舞台になった地方を巡る"聖地巡礼"ブームに象徴されるように、近年のアニメではローカル色を強く出した作品が数多く製作されていますが、上記のキャスティングの妙に象徴されるように『波打際のむろみさん』の地方愛、福岡愛はなかなかのもの。是非とも、本作は方言に注目をして観ていただきたい作品です。
また、アニメーションの美麗さにも大注目! というのも、本作の監督である吉原達矢さんは、『SKET DANCE』や『探偵オペラ ミルキィホームズ』といったアニメ作品で非常にハイテンションかつ美麗なアニメーションを描いてきた有名アニメーター。
そんな吉原さんがテレビアニメシリーズの監督デビューを果たしたのが、この『波打際のむろみさん』なのです。更に、製作を老舗スタジオのタツノコプロが担当しており、綺麗で、よく動き、デフォルメ表現やエフェクトを駆使した絵のケレン味もタップリ!
本作は一話につき、放送時間が15分という通常のアニメ作品に比べると半分のサイズで作られているのですが、愉快で個性的なキャラクターに、原作のテイストを再現したこだわりの方言描写、そして、見応えのあるアニメーションがタップリと詰まっており、非常に充実した作品となっています。