最初に訪れたのは「実験室」です。ここは、文化財の救急医療室のようなところ。問題がある文化財はまずはこの部屋に持ち込まれます。
そして、修理の度合いに応じて館内で修理を行うか、外部の修理業者に依頼するかを決めるそうです。
土屋保存修復室長によると、修理点数は年間1000件以上になることも。
そのうち100件ほどは外部の修理業者、残りは館内で修理をします。
修理の一番のポイントは、修理をしたものに対して、将来的に再度処置を施すことを想定し、補強に使ったものなどが作品に負担をかけることなくはずせるようにすること。
そのため、接着剤の選択などにも細心の注意を払っています。
これが修理に使われる接着剤の一部。
動物性コラーゲンが原料の膠(にかわ)や布海苔です。
布海苔は接着剤としてだけではなく、クリーニング剤にも使えるとのこと。
女性がよく使うパックと同じように、一度塗って剥がすときに表面の汚れが付着して汚れを取るのだそうです。
新糊と古糊は、小麦粉の澱粉から作られています。
トーハクでは、小麦粉澱粉を購入し、必要に応じて水を加え加熱して使っています。
古糊は、新糊を瓶(かめ)に入れて10年間寝かせておいたもの。
発酵しているためぬか漬けのような香りがします。
古糊は新糊に比べて粘着力が弱く、掛幅装や巻物などの補強用和紙の接着に使われています。
そのほか、アクリル樹脂などの合成樹脂製の接着剤も使用するそうですが、酸性物質を出してしまうものは、文化財を傷めてしまうため使いません。
すべての接着剤は調査をして、酸性物質が出ないものだけを使用しています。細かいところまで気を使っているのですね。
この日は、瓦の修復が行われていました。
欠けてしまったところを修復した石膏が剥がれているため、新たに埋めた部分にだけ色を付けています。
使用している塗料はアクリル絵具。
いろいろな配合で色を作って塗っています。
そのほか、染織品や洋書の修復も行われていました。
なかなか見ることができない現場ですね。