文化財の保存修復は「出会い」と「発見」
このあと、保存修復の作業を収めた映像を閲覧し、参加者との質疑応答があり、ツアーは終了。およそ2時間30分の充実した時間を過ごすことができました。
ツアー終了後、今回バックヤードツアーで案内をしていただいた皆様にお話を伺いました。
--保存修復という仕事で一番大事なことはなんでしょうか。
神庭さん:必ずみんなと一緒にやっていくということ。
自分一人でやることはある意味簡単ですが、その場で終わってしまい、次に繋がりません。我々が死んでも、文化財は残ります。次の世代がまた保存修復をするときがやってきます。
だから、やりっ放しではダメなんです。
仲間とか職場の同僚などとコミュニケーションを取って、次世代に繋げていくことがすごく重要なことだと思っています。
貴重な文化財を保存するだけでなく、次世代に残していく。
そのためには、自分だけでなく共に作業をする仲間や後輩へ、その技術や意味を引き継いでいく必要があるのですね。
最後に、みなさんにこの仕事のやりがいについて伺いました。
神庭さん:何かを見つけていくということですかね。
調査診断、予防、保存修復というものが、一連のものとして認識しないといけないということは、以前の博物館では考えいていませんでした。
しかし、トーハクでこういう仕事をやらせていただいて、このような経験をどうやって活かしていこうかと考えるようになりました。
ひとつの作品と出会って、何か発想をしていくということがすごくおもしろいのがこの分野。
作品と出会って、調査をしていくうちに、いろいろな伝統技術や過去の伝来経緯などがわかっていくことがあります。
そこが魅力。作品と出会い、博物館と出会い、そのなかで新たな発想を自分の中に作り上げていくというのが、生きがいですね。
土屋さん:この仕事をしていて、今まで蔵に眠っていたようなものが展示されて、見ていただいた方に「こんなものがあったんだね」という反応が得られるのがすごくうれしいんです。
また、修理室に出入りしている技術者さんが、大手の民間の工房や美術館、博物館などに就職していく。そういうことにも生きがいを感じます。
今まで注目されない、眠っていた文化財が、世の中に出て行くというのがすごくうれしくて、この仕事のモチベーションになっています。
荒木さん:日本の文化を守っていくということはとても大事なことです。
文化は我々日本人のアイデンティティの源の一部だと思います。
このトーハクには多くの文化財がありますが、それを保存して展示する。
そういう活動に自分の時間を費やしていけるということに、すごく充実感を感じています。
小野さん:国立博物館で、800振もの刀があるところはありません。
なおかつ、修復する場所もほかにはない。そのなかで展示をするのは年間200振くらい。
ここで仕事をしていると、普段は展示されない、日の目を見ないもののなかにすごい大名刀があるわけです。
そういうものをいつか、展示できればいいなと。仕事をしながら絶えずそれを思っています。
東京国立博物館の裏側を見られる貴重な「東京国立博物館バックヤードツアー」。
最初は物珍しさでワクワクしていましたが、みなさんのお話を聞いているうちに、博物館という場所が日本の文化を伝承する場所であること、そして貴重な文化財を守っている方々のご苦労などが知ることができ、非常に有意義な時間を過ごすことができました。
貴重な体験をさせていただきました、東京国立博物館の皆様に、御礼申し上げます。
そしてまた、このような実りの多い企画を開催していただきたいと思います。
なお、11月29日までは表慶館において「アート・オブ・ブルガリ 130年にわたるイタリアの美の至宝」を開催。
また10月27日からは平成館において特別展「始皇帝と大兵馬俑」が開催されます。
今回の保存修復のことを知ってから訪れると、また違った見方ができるかもしれません。ご興味ある方は、ぜひ一度足を運んでみてはいかがでしょうか。