今を生きる人々を見て、力が湧き出る実話の物語
今回、もうひとつ目立つのが実話をもとにした映画。いずれも今を生きる私たちにぜひ見てもらいたいという。
「ある過去の事実をなぜ今描くのか?そこには、作り手が今の人々に届けたい何らかのメッセージが必ず隠されているのではないでしょうか。
実在の女医をモデルにした『ニーゼ』は、ショック療法が正しいとされている時代を背景に、ブラジルの精神科医の奮闘を見つめた物語。患者を人間扱いしないことが当たり前の時代、彼女は芸術療法という画期的な試みをしようとする。
ただ、その前に男性社会と従来の精神医療体制という壁が立ちはだかる。その壁を彼女は持ち前の寛大さとタフさで乗り越えていく。その姿からは、多くの人がきっと今の時代を生き抜くのに必要なヒントを見い出すことでしょう。また、チャレンジを恐れない彼女の生き様に一歩踏み出す勇気をもらう人もきっと多いはずです。
『地雷と少年兵』は、終戦直後のデンマークの物語。
デンマークのとある海岸にナチスによって埋められた地雷撤去に、捕虜となっていたドイツの少年兵が動員される。ただ、その少年兵たちのほとんどが実は戦闘に参加していない。そこでデンマークの指揮官の心が揺れ動く。“まだ幼く何も知らない彼らに罪はあるのか?”と。
ここにおいては人の持つ寛大さや赦しの精神、慈悲といったテーマが浮かびあがる。何かと争いごとや揉め事が耐えない現代において、このテーマはいろいろと深く考えさせられます」
意外と知らない世界の窓を開いてくれる
意外と知らない世界や文化、風習といったことを知ることができるのも映画。
いままでまったく知らなかった世界に簡単にアクセスできて見識を深めることができるのもまた映画の魅力といっていい。
そういった観点でのおすすめが『ガールズ・ハウス』だ。
「イランのシャーラム・シャーホセイニ監督による本作は、謎解きドラマの形式のサスペンスなのですが、イラン社会及び、イスラム社会に現存するひとつの深い“闇”にスポットを当てている。
日本にいるとイスラム社会の現実に触れる機会はめったにない。
イランの若い女性はこんな感じで日々を過ごしているんだと思う一方で、文化や社会の違いにいろいろと驚かされるドラマでもあると思います」
大スクリーンで見たい、スペクタクル感満載の映像
劇場のスクリーンの大画面で見るのもまた映画の醍醐味。
ぜひスクリーンでみてほしい作品には『カランダールの雪』と『フル・コンタクト』をあげる。
「正直、コンペティションの全16作品はスクリーンで見てほしいというのが本音です。でも、あえて、大スクリーンならではのスペクタクル感のある映像が味わえるということではこの2本。
『カランダールの雪』は、トルコの山奥で電気も水道もない暮らしを送る家族の姿がドキュメンタリータッチで描かれている。スケールのある映像は圧巻の一言です。
『フル・コンタクト』は、ドローンを操作して爆撃を繰り返した末、精神を病んだ兵士の物語。こちらも迫力の映像が大きなみどころ。スクリーンならではの圧倒的な映像体験を約束します」