■サービスする側が一番うれしい言葉は?

――ところでいつも思うのですが、サービスの人って客にどうされたら嬉しいんですか?「一番は料理を運んだときに“ありがとう”と笑って言っていただくことです。サービススタッフは厨房のシェフとお客様の間に立って、あらゆる問題を解決し、みなさんが楽しめる空間と時間を作らなければなりません。常に頭も体もフル回転していて、僕が言うのもなんですが、重労働なんです。だからこそ、お客様の素敵な笑顔と温かい言葉が胸に染みるんです。ぜひ声をかけてください。スタッフも、このお客様のためにがんばろうと思いますから」

――うーん、当たり前のことだけれど、なかなか出来ない人も多いかも。
「そう、マナーって結構当たり前のことなんですよ。子供の頃、親に教えられたことばかりかもしれません。それが何故か大人になると忘れてしまうんですね」

――何も言わずに予約をキャンセルするとか。
「それはマナー以前の問題です。問題外ですね」

――はい。僕も当日一緒に行く相手が急にダメになったりしたら、意地でも別の人間を捕まえて行きます。約束は守ろうって、小学生でもわかることですよね。

■ナイフ・フォーク・スプーンの基本テクニック

――ハンバーグです! 早速ですが、ナイフで切るのはどちらからですか? 真ん中から?
「左です。フランスでは左が上なんです。日本は右ですが。料理は左が盛り上がるようになっているでしょう? 重ねて盛り付ける時フランス料理は左が一番上になります。日本は右から食べるから、右から食べやすくなってます」

――ほんとだ。
「切ったら、フォークを右手に持ち替えて食べてもいいですよ。日本人は片手文化ですから、それは問題ないです。フランスでも大丈夫。ただ、イギリスではマナー違反ですが。うん、このクリームマスタードソースはいいですね」

――残ったら、パンにつけたくなりますね。
「それもマナー違反」

――それも!
「公式にはそうです。街場のビストロとかでしたら問題ないですけどね」

――いろいろありますねえ。せっかくだから他には。
「熱いスープを飲むときに、冷まそうとしてフーフー吹くのもダメです。少しずつ掬って飲んでください。そしてスプーンの方向は縦です。量が減って、取りにくくなったらお皿を傾けてもいいですよ」

――ふーん。このステーキ、素晴らしく柔らかい。おろしポン酢と絶妙に合います。ちなみにナイフを置くときの向きは刃が内側でいいですか。

「はい。これは相手に対して敵意が無いことを示しています。食べ終わったら、そろえて横か斜めに置くのがフランス流。縦はイギリス流です」

――考え始めると大変ですね。
「でも結局、同席している人が楽しむためにどうするかなんです。食事中はトイレに立つのがNGというのは、料理を出すタイミングがずれて美味しくなくなってしまって、相手に迷惑をかけるからですし。ドレスコードがあるのも、ひとりだけ違う格好で浮いてしまってはよくないからでしょう。だからマナーを覚えるのはレストランをより楽しむためなんです。こんなこと言ってますが、僕なんか最近まで九州ラーメンの「替え玉」の仕組みも知らなかった男ですから。回転寿司って、これ食べたいって注文して良いんですよね。回ってるお寿司を絶対に食べなければいけないと思っていました。最近若いスタッフに教えてもらいました。ですから今、フレンチのマナーを知らなくても恥かしがる必要はありません。聞けばいいんです。ちなみに替え玉するならスープ飲んじゃいけないんでしょう?」

――そうです、そうです。なんか優越感。