さて、その結果ですが、3巻を発売した頃から、読者アンケートで「美容室でオススメされて読んでみた」など、これまでと違った反応が見られるようになったのです。
読者アンケートに出す人はごく一握りの人だと考えられます。ですので、その背景にはもっと多くの読者がいて、美容師さんたちの働きかけがあったと考えられます。
佐渡島さんはアンケートを出してくれた女性読者に対して、20、30代で、友達が多そうで感想を書いてくれそうな人に、さらにポスターと手紙を送付しました。
こうした編集者の地道な努力の結果、第6巻が出ることには男女比が5:5になり、その頃には単行本全体の売り上げもじわじわ伸びてきたそうです。連載当初から人気だというイメージのある『宇宙兄弟』ですが、実は編集者の智慧と努力が隠れていたのです。
「最終的に、美容室に送るところから始めたプロモーションが、どれほど効果があったのかは正確にはわかりません。作品自体もどんどんおもしろくなっていったので、自然と口コミが増えていて、何もやらなくても一緒だったかもしれません」ぼくらの仮説が世界をつくる
と、自著では遠慮がちにふり返っていますが、これまで一般的だった「書店に販促物を送る」という宣伝方法とは一線を画した佐渡島さんのアイデアが何かしら影響していることでしょう。
そんなことで2007年にスタートした『宇宙兄弟』は大人気マンガとなり、今では、映画『オデッセイ』とコラボし、小山さんはマット・デイモンを描くまでに。一つのマンガのヒットの裏側に、編集者の驚くべきアイデアとそれを実行する行動力があったのです。
実は佐渡島さんはマンガ『ドラゴン桜』も手がけた敏腕編集者。現在は講談社を退社し、作家エージェント会社・コルクを創業。インターネットが欠かせない時代のエンターテインメントをあり方を模索し続けています。次なる活躍が大変楽しみな人でもあります。
<参考書籍>
『ぼくらの仮説が世界をつくる』佐渡島庸平著(ダイヤモンド社)