佐藤 統計データから、どんなことがわかっているんでしょうか?

荻上 国際比較から環境比較まで、さまざまな研究があります。例えば「現代の日本のいじめはひどい、昔はここまでひどくはなかった」というデマを口にする人がいますが、いじめはどの国にもどの時代にもあります。そして報道イメージに反して、いじめの件数自体が増加しているわけでもありません。

佐藤 最近になって増えたものではないと。

荻上 はい。それから、いじめが発生しやすいホットスポットと呼べる環境もわかっています。「休み時間の教室」がそうですね。また体罰を肯定したり、生活指導が厳しかったりする教員のいる教室もいじめが多発します。

ネット上でのいじめがよく話題になりますが、単独で存在するケースは稀で、ほとんどは教室でのいじめがセットになっていますし、セクシュアルマイノリティ、貧困層、障害当事者など、いじめられやすいハイリスク層がいる。

多発する時期としては、小学校中学年がピークであり、その後、減少していくこともわかっています。

佐藤 そういったデータを分析し、解決策を提案していく。とても重要な取り組みですね。

荻上 メディアの報道はいじめ自殺が発生した時の事件報道がベースで、どのような環境でいじめが起きやすいのか、抑止力として何が効果的なのか、経済損失がどれくらいあるのか、といった議論が十分にされてこなかったんですよね。

そういった、これまでサボられてきた仕事に向かい合っていくのが僕らの役割ではないかと思っています。

ソーシャルスキルの有無が分岐点になる

荻上 佐藤さんは、いじめにまつわるご経験はありますか?

佐藤 官僚の世界はパワハラとセクハラの巣窟でしたが、学生時代は無事でした。なんとなく皮膚感覚で己の守り方を心得ていたんですよ。

荻上 己の守り方というと?

佐藤 クラスやグループでいちばん腕力の強いヤツと仲良くなるんです。そいつが何か悪いことをしていても、絶対に先生や親に告げ口しない。最初は2、3発殴られることもありますが、それも絶対に告げ口しない。そうすると圧倒的な信頼を得ることができるので、何かあってもターゲットにはならない。

荻上 いじめっこに対してそういう処し方ができたのは、佐藤さんのソーシャルスキルが高いからですね。統計上も、加害者のほうが被害者よりも、ソーシャルスキルが高いのです。

佐藤 インターネットやスマホもない時代ですから、いまとはまた事情が違うでしょうけれども。