荻上 ネットがなくても、基本的な構造は変わりません。実際にいじめのターゲットになりやすいかどうかは、ソーシャルスキルの有無と非常に深く関係しています。例えば同級生との共通の話題にうまく乗れない、あるいは空気が読めないと、ハブにされやすい。

佐藤 異質なものがターゲットになるというのは、変わらない構図かもしれない。

荻上 内閣が取ったデータを分析し直してみたところ、暮らし向きの悪い家庭の子どもほど、いじめのターゲットにされやすい傾向が明らかになりました。教育資本の投資が少なく、ソーシャルスキルを身につけるタイミングを逸してしまっているからでしょうね。

つまり、経済階層がいじめとも関係してしまう。いじめは教育問題だけでなく、労働問題や貧困問題、差別問題など、複数の観点から検討しなくてはならないんです。

佐藤 ソーシャルスキルは生まれつき備わっている能力ではなく、社会の中で培っていく技術ですからね。初期段階で集団から逸脱すると、取り返すのが難しくなる。

荻上 そうですね。これは貧困家庭だけでなく、発達障害の当事者などハンディキャップのある人たちも抱えがちな問題です。


荻上チキ
1981年生まれ。評論家。編集者。シノドス編集長。
ネット上の問題やいじめ、セックスワーク、メディア論のほか、政治、経済、サブカルチャーにも評論を広げる。

著書に『新・犯罪論』(浜井浩一との共著/現代人文社)、『僕らはいつまで「ダメ出し社会」を続けるのか』(幻冬舎新書)など。

佐藤優
作家、元外務省主任分析官。1960年生まれ。同志社大学大学院神学研究科修了。2005年に上梓した『国家の罠−外務省のラスプーチンと呼ばれて』で第59回毎日出版文化賞特別賞受賞。

2006年には『自壊する帝国』で第5回新潮ドキュメント賞、第38回大宅壮一ノンフィクション賞受賞。世界・経済情勢はもちろん、愛する猫についても語る「知の巨人」。

右肩下がりの君たちへ

著:佐藤優 1,058円

社会の恩恵を感じ難い社会構造となってる今、この閉塞状況を打破するためのヒントを佐藤優と、若き知識人たちが語り合う。

津田大介×佐藤優「情報を見極めること」
古市憲寿×佐藤優「希望を持つこと」
萱野稔人×佐藤優「家族を持つということ」
木村草太×佐藤優「変化の中で生きること」
荻上チキ×佐藤優「いじめについて考えること」