振り込め詐欺や還付金詐欺など、近年、大きな社会問題となっている特殊詐欺。そんな特殊詐欺を取り締まる警視庁捜査二課の活躍を通じて、その実態に迫る土曜ドラマ「サギデカ」が、8月31日からNHK総合で放送開始(毎週土曜午後9時~全5回)となる。脚本を担当したのは、「透明なゆりかご」(18)を始め、数々の話題作を手掛ける安達奈緒子。放送を前に、主人公の刑事・今宮夏蓮を演じる木村文乃が、ドラマの見どころ、撮影の舞台裏について語ってくれた。
-出演オファーを受けたときのお気持ちは?
刑事役はこれまでも経験ありますが、捜査二課は初めて。よく知らなかったので、1人の人間として台本を読ませていただきました。そうしたら、小説かと思うぐらい人物像がはっきりしていて、気持ちの動きにうそがない。たちまち安達さんの脚本の魔力に魅せられました。それぐらいよく練られた台本だったので、「これは受けるしかない」と。
-魅力を感じたのは、どんな部分でしょうか。
主演ということに加え、感情の振り幅も大きな面白い役柄だったので、挑戦になるな…と。何より、原作のないオリジナル作品をやらせていただくのも貴重な機会ですし、綿密に練り上げられた題材ということで、この作品に懸ける大人たちの意気込みに乗っかりたいと思いました。
-捜査二課の刑事を演じるために、どんな準備を?
資料をたくさんいただきました。そこには、実際に特殊詐欺の被害に遭われた方々の声や、関係者に取材したインタビューがまとめられていて、読んでいるだけで「これは知らなければいけない」と思わせるものがありました。特殊詐欺を扱ったNHKの番組も見せていただきましたが、一筋縄ではいかない難しい問題だな…と。これだけ厳しく取り締まっているのに、なぜなくならないのか、疑問を持つ方も多いでしょうが、見ていただければその理由が分かると思います。
-そういう準備は、お芝居にどんな影響が?
今回は、詐欺をする側の事情も細かく描かれているので、聞けば聞くほど、知れば知るほど、迷いが生じてきました。だから、私の中でも、答えが出ないまま、苦しみながらの撮影になり…。そういう生の声を知らずにやっていれば、自分の中で正解を持ち、もっとはっきりしたお芝居になっていたはずです。ただ、その迷いも今宮の葛藤として描かれているので、「正解が分からなくていい。物語を進めながら、自分なりの答えを見つけていこう」と考えました。
-今宮を演じる上で心掛けたことは?
顔合わせのとき、西谷(真一)監督が「(映像の)つながりは気にしなくていいです」とおっしゃってくれたんです。これまで、どちらかというと「毎回、同じことをしなさい」という環境でお芝居をしてきたので、「その場で生まれてくるものを一番大事にしてください。後は僕たちが何とかします」と力強く言ってくださったことが、涙が出るぐらいうれしくて…。ならば、私も今宮を演じながら、縦横無尽に駆け回ろうと。だから、普段は「この人はこう」と決めてお芝居をしがちですが、「さっきはこうだったけど、ここは今のこういう感情で、このテンションでいい」と、ちょっと肩の荷が下りた感じでやることができました。
-今宮は一度逮捕した詐欺グループの一員・加地颯人(高杉真宙)と深く関わっていくようですが、2人の関係について教えてください。安達さんが「今宮がヒーローで、加地がヒロイン」とおっしゃったそうですが。
安達さんからまず、「最初から犯罪者で生まれてくる人はいない。犯罪に手を染める人は、絶対に何らかの理由がある。だから、そこを愛してほしい。加地くんを愛してほしい」という話がありました。そう言われると、加地くんは守るべき対象になってくる。そうすると、加地くんを守る今宮はヒーローかな…と(笑)。でもそれは、みんながそう望んだから、自然にそういう空気が出来上がっていったんだと思います。
-次第に2人は信頼関係で結ばれていくようですね。
そうです。その展開に無理やりな部分がないのが、安達さんのすてきなところ。自分が信じたものを貫くため、今宮は次々と行動を起こしていく。そのきっかけを作るのが、加地くんの役割になります。その中で、次第に憎むべき対象が見えてくるのですが、思っていたものとは違っていたり、100パーセントの悪とも言い切れなかったりと、深いものがあって…。
-今宮と加地は本来、対立する関係でありながらも、親しく言葉を交わすようですが、そのあたりの心情はどんなふうに考えましたか。
今宮の根底にあるのは、敵・味方関係なく「人間として、相手とどう接するか」という考え。例えば、詐欺の被害に遭ったおばあちゃんに話を聞きに行くときも、「話を聞く対象」ではなく、きちんと「1人の人間」という姿勢で向き合う。だから、お宅に伺ったときは、出されたお菓子をおいしくいただく一方で、犯人を捕まえられない申し訳なさから、座布団には座らなかったり…。そういう、人間としての芯の部分については、監督がものすごくこだわっていました。加地くんにも、それと同じように接しているんだろうなと。ただ、本人は自覚していませんが、今宮がそう考えるのには、きちんと理由があります。それも、次第に明らかになっていきます。
-演じてみた手応えはいかがでしょうか。
「怖い」の一言です。正解を持ってやっていなかったので、お任せするしかなくて…。ただ、西谷監督をはじめ、スタッフ、キャスト全員が安達さんの脚本を信頼していたので、それに沿ってやっていれば、絶対に間違いはないだろうと。後は視聴者の皆さんに委ねるしかないので、ぜひ感想を聞かせてほしいです。
-最後にドラマの見どころを。
この物語は、実際に起きた事件を基に、綿密な下調べと、協力してくださった記者の皆さんや、警察関係の方々のお話があって出来上がっています。大げさなドラマだと思わず、隣にある話だと思って見ていただけたら。ドラマとしても、展開がスピーディーで内容も濃いので、毎回、ジェットコースターに乗っているみたいにあっという間です。ぜひ楽しんでください。
(取材・文/井上健一)