――先ほどマイナス人生オーケストラはメイクを落としたりしてV系内外と対バンしていたと仰ってましたが、つまりその時はキャラクターと音楽を紐付けしてなかったということですよね。

ハル:そうですね。でも「キャラクターも好き」って言うことは、その人の全部が好きっていうことだからそれは悪いことでもないのかな。

松永:とくにYouTube以降はキャラクター、ヴィジュアルと音を連動させてみるじゃないですか。それをいったら世の中みんな〈ヴィジュアル系〉なのかもしれないですね(笑)。

――〈ヴィジュアル系〉の意味を広くとるとそうなりますね(笑)。

松永:それに、今〈メンヘラ系〉と一言でいっても、音楽から文学までもういろんなメンヘラ系があるわけで。メンヘラにせよヴィジュアル系にせよ、言葉の濫用によって変化するのは避けられないんです。その過程で広がっていくじゃないですか。

――たとえばマイナス人生オーケストラに『ゴスロリ脱いでも』という曲があるじゃないですか。「ゴシック・ロリータ」にしたって略しただけで反発がくる時代もあったと思うんです。

ハル:「ゴスロリ」につっかかるような人もほぼいない時代だからこそ、歌えるタイトルだったんですよね。それはライブに来る方でゴスロリの方は少ないからかもしれませんが。

――マイナス人生オーケストラのライブは運動量が多いですからね。

松永:うちのファンも08年くらいはロリータファッションが多かったのが、今は動きやすい服装が多いですね。「動きやすい服装」って言い方、遠足みたいですね(笑)。それは全ジャンルそうで、バンドもアイドルもファンがどんどんフィジカルに、身体的になっていってる。こちらとしても身体的なものを促したほうが、みんな喜ぶのかな? という感覚はあります。

ハル:音楽業界の流れとして、CDの売上が落ちていってる中で、どこに価値を置くのかと考えた時に、ライブになるわけで。そこで「ライブにしか無いもの」を考えたら、身体性が重視されるのは必然的なんじゃないですかね。

松永:たまにアイドルのライブを観る機会があるんですが、お客さんが全身にサイリウムを付けてリフトしていたりして「あれ、ステージは見てないの?」みたいな。身体的にならないとライブのプライオリティが出ないのかな。

――とは言え、ミュージシャンとして「生演奏を聴かせたい欲」みたいなものはあると思うんです。

ハル:それはバランスですよね。自分たちがやりたいことも間にはさんで…みたいな。

松永:僕たちもワンマンライブでは浜崎さんだけで歌うパートとかは、当然聴かせるものにしていきたいなと思ってやっています。

年末にホール公演をやりましたが、今の風潮的に「聴かせる」ものって銘打ったライブは、着席のアコースティック公演だったりするじゃないですか。会場もそれに向いてるホールやクラブだったり、そういう風に「普段のライブではない」ことを事前にアナウンスしていますよね。

ハル:音楽に対する価値観も段々変わってきているじゃないですか。

マイナス人生オーケストラ・ハル(Vo)/アーバンギャルド・松永天馬(Vo) 撮影・小林裕和

松永:今の若い世代は何を聴いてるんだろうと思いますよね。最近、音楽をそもそも聴かない若者もいるというニュースもみました。

――音楽を聴くツールがスマホになっているので、通信容量制限などもありますし、積極的には聴かないという話もありましたね。

松永:スマホの容量もですけど、人間の容量もだと思うんです。僕は人間が摂取できる情報量ってキャパ的に上限があると思うんです。

SNSがコミュニケーションのためのコミュニケーションツールになってるじゃないですか。コミュニケーションのネタとしてのPVやライヴだったり、それを消費することはできるんだけど、まず音楽に向かうというのは難しくなってきているのかな。我々はそこにどう対抗するか考えてなくてはいけないなあと。