蜷川幸雄さんを見送る(左から)小栗旬、綾野剛、松坂桃李、藤原竜也

 肺炎による多臓器不全のため今月12日に死去した演出家・蜷川幸雄さん(享年80)の告別式が16日、東京都内の青山葬儀所でしめやかに営まれた。出棺の際には藤原竜也、小栗旬、綾野剛、松坂桃李、長谷川博己、高岡奏輔らがひつぎを運び、故人を見送った。

 出棺の前には妻で喪主の宏子さんに代わって娘で写真家の実花さんがあいさつした。「本当に最後まで闘って現役のまま駆け抜けた人生だったと思います。生前、口癖のように『やりたいことしかやっていないのでいつ死んでも後悔はない』と話していました。どの時期をどの角度から切っても幸せな人生だったと思います」と語った。

 だが、蜷川さんの演出がかなわず残された作品の台本を目にすると「ああ、まだいっぱい見たかったな。まだまだやりたかっただろうなと残念でなりません」と悔やむ気持ちも吐露し、「もう新作を見ることはできませんが、これからは残された私たちが父のマグマのような熱を引き継いでひたすら前を向いて走ろうと思っています」と決意を語った。

 その後、参列者が霊きゅう車を囲むように見守る中、藤原、小栗、綾野、松坂、長谷川、高岡らがひつぎを担いで祭壇から霊きゅう車まで運び込んだ。位牌を持った宏子さんと遺影を持った実花さんが並んで立ち、報道陣に一礼する場面もあり、横一列に並んだ藤原たちは蜷川さんを乗せた霊きゅう車に向って深く頭を下げた。霊きゅう車が葬儀所を後にするまで参列者による拍手はやまず、涙ながらに故人との最後の別れを惜しんだ。

 出棺後に改めて報道陣の取材に応じた藤原は、むせび泣きながら読んだ弔辞から一転、「覚悟はしていたけどこの日が来てしまった。まだ気持ちの整理はつかないです」としっかりとした口調で心境を語った。「しっかりと教育は受けてきたつもりなので、いい仕事、いい芝居で返していけたらいいなと思っています。あの人がいなければ僕という俳優はいないので、本当にただただ感謝しかないです」と“恩師”への感謝を述べた。

 蜷川さんとは「時にけんかもしましたし、憎しみ合ったりもしていたんですけど。罵声を浴びせられたことしかないし、最後まで怒られてばかりでした」と苦笑交じりに明かし、「ただ一つ、怒ってくれる人がいなくなって寂しい気持ちもある。あの人の作る世界って絶対的なものがありますから。蜷川さんの世界に入り込ませてもらうと、こんな人生があったんだって発見があった」と振り返った。