「プロレス観たくなったな」って思ってもらえる為に書いた本

――そうした人々を紹介していく上で、構成も凄くよくできているなというのを読んでいて、真っ先に思いました。先ず、前書きが第一回PRIDEでの高田延彦対ヒクソン・グレイシー戦に始まり、それぞれにテーマを絞った全三部構成で、今のプロレスを紹介する。凄く物語がある一冊ですよね。

三田:私、文章を書く時に、最初に何で始めるっていうのはわりと考えるんです。もしも自分が本を書くんだったら、最初は絶対にPRIDEで始めようと思っていたんですね。高田選手の敗戦は自分も凄くショックでしたし、それで「この仕事をやっていこう!」って覚悟ができたというか肝が座ったのは、本当にあの日だったので。あの時って、皆、ショックだったじゃないですか!

――そうですね、はい。

三田:本気で高田さんが勝つと思っていたし、「プロレスが負けた!」みたいな感じになったので、PRIDEで始めようというのは最初から考えていました。

あとがきで書いた震災とプロレスの話も最初の企画のところでは、なかったんです。けれど、色々と書いていく中で、やっぱり書きたいことって増えていって、例えば、橋本真也さんにまつわるコラムも後々になって書きたいと思いまして、「これ入れていいですか?」って言って、書かせてもらいましたし。

――一方でおもしろいのが、中央公論新社さんという大きな出版社さんから出ている新書にも関わらず、例えば透明人間ミステロンだったりだとか、ヨシヒコとか、物凄くコアな固有名詞も出てくるじゃないですか。

三田:そうそう(笑)。ただ、透明人間であったり、ヨシヒコであったり、プロレスにおいて飛び道具ではありますけれども、それをちゃんと真面目に書きたいなと思ったんですね。

皆「意味が分からない!」って思うんですよ、ただ、非常に有り難いことに、今は検索という素晴らしいシステムが世の中にあるので、これを読んで「ヨシヒコ?」って思ったら、検索していただくとDDTの公式に素晴らしい動画が沢山上がっているので、「これか!」って分かっていただけると思ったんです。

――確かに、プロレスを知らない人に「プロレス、おもしろいよ」って紹介する時に、棚橋選手の試合だったり、大日本の関本大介選手の身体だったりを見せると「凄い!」ってなるんですけど、それと同じぐらい、飯伏幸太対ヨシヒコ戦って、一般層の食い付きが半端じゃないんですよね(笑)。

三田:凄いんですよね! あの試合は、本当に凄かったし、やっぱり、紹介する必要があると思って取り上げましたし、ミステロンにしても、男色ディーノというプロレスラーが世に出るきっかけになった素晴らしい試合ですので。

「おもしろいことをやっている」「変な人がいます」っていうだけじゃなくて、透明人間との試合を成立させるだけの技量がある、それをきっかけでディーノ選手は、今の世に出てきた人なんだよっていうのを書きたいと思いましたし、それはもう書かざるをえないというか、書くのが当然だと思いましたので。幸い、それをカットされなくて良かったなと(笑)。

――それこそ、男色ディーノ対ミステロン戦なんて、DDTの武道館興行でリマッチも行われましたよね。要は、一万人の観客の前でも成立する名勝負っていう。

三田:そうなんですよ、名勝負なので。これは、本の冒頭にも書いたんですけど、「あ、プロレス観たくなったな」って思ってもらえる為に書いた本ですので、そうやって興味を持っていただけたら一番嬉しいな、と。

――読んでいて、プロレスを知らない人にも凄く伝わりやすい文章だと感じました。一般の人でも、各選手の人となりや試合のスタイルがイメージできるアプローチになっているな、と。

三田:私、自分で書いていると、プロレスを知らない人がどこに疑問を持つのか分からないんですよね。これから全くプロレスを知らない方にこの本が届いていくのであれば、そういう方々がどう読んでいただけるのかな、というのが私の中でも凄くドキドキしているところもあって。

だから、「成るべく、丁寧に書こう!」とは思いました。例えば、丸藤正道選手の身体能力の高さや人懐っこさを私達は知っているけれども、全く知らない人にも興味を持っていただけるような説明はしたいなと思ったんですよね。それが、できているかどうか本当に不安なんですけども、読者の皆さんに伝わっていればいいなとは思います。

――一方で、若手選手への一日密着取材や興行の裏側など、現場を知る三田さんならではの視点で書かれた文章は、プロレスマニアの方でも楽しめると思いますし、その辺りのバランス感覚も絶妙ですよね。

三田:そう感じていただけたなら、良かったです。

――あと、プロレスファンは「ランジェリー武藤」なんて選手名が出てくると単純に凄く嬉しいんです(笑)。

三田:そうなんですよね! プロレスファンって、そういうもので。読み進めると意外な人が沢山出てきて、最後の震災とプロレスにまつわるエピソードでは、ランジェリー武藤とゴージャス松野さんと大家健選手が出てきて。「あの不意打ちで泣きました!」という方もいらっしゃって。