プロレスの魅力は、喜怒哀楽が全部、6メートル四方のリングに詰まっていること
――アナウンサー、キャスターとして活躍されている三田さんだからこそ、お伺いしたいポイントなんですけど、プロレスを表現する上で「話す」ことと「書く」こと、そこに違いを感じたりはありますか?
三田:書く仕事をやっていて改めて思ったのですが、さくらえみさんや棚橋さんのように心に響く言葉を持っているプロレスラーの方は、やっぱり凄いなと思いました。マイクアピールでいつまでも心に残る言葉を発することができるプロレスラーって凄いんだなという。
自分の中で喋ることと書くことって分けてるつもりはないんです。けれど、喋ることって特に生放送だと思ったことを瞬時に言うんですけど、だいたい「もっと別の表現が有った気がする」と悶々と考えて、その考えたことを文章でガッと書くことが多い気がします。自分の中で、繰り返し繰り返し思ったことを書くという。
――改めて、三田さんにお聞きしたいのですが、プロレスの魅力とは一体何なのでしょうか?
三田:そうですね。この本を出したタイミングというのが、新日本プロレスでは、中邑選手がWWEに行くとか、トップを張っていたAJスタイルズという外国人選手がアメリカの団体に行くっていうことがあって、ここ数年メインイベントでベルトを巻いていた人達がいなくなってしまった状態ではあったんですね。「さぁ、どうするんだろう?」と思っていたら、そこに新しいスターが出てきて……。
――そうですよね。
三田:内藤哲也選手という、これまで何をやっても皆に受け入れてもらえなくて、あんなにプロレス大好きで、あんなにファンサービスも好きなのに、ファンに「未だエースの器ではないのではないか?」と言われ続けてきた人が、ここに来て大ブレイクする瞬間を観ることができた時のあの驚きと衝撃っていうのもあって。
やっぱり喜怒哀楽が全部、6メートル四方のリングにあって、下克上もあれば、叶わない夢もあって、でも、それが叶った、乗り越えた時の恍惚みたいなものが全部、あそこにはあるんです。
だから、誰か一人を見ていくことによって、その人の悔しさだったり、辛さだったり、でも、それを乗り越えた時の歓喜だったりを一緒に味わうことができるのがプロレスのおもしろさだと思うんですよね。
――まさに、プロレスならではの醍醐味です。
三田:たまたま会場に行ってみて楽しかったというのも勿論なんですけど、見続けることで見えてくる人だったり、自分の人生を賭けたくなる人っていうのは出てくるハズなんです。
それが棚橋選手のようなスーパースターでもいいですし、本間朋晃選手のようなやってもやってもなかなか勝てなかった人が後楽園ホールでメインイベントを張って勝って、会場が大爆発する瞬間を見届けることができるという喜びもあると思いますので。
自分の人生を賭けられるなっていう人が、この幅広いプロレス界には絶対に一人はいらっしゃると思うので、そういった選手を見つける喜びがあるなと思います。
プロレスは、自分の命や身体を削りながら戦う、そこにあるドラマを観に来て欲しい
――これから、注目の興業などありましたら教えてください。
三田:これからの季節で言うならば、夏は新日本プロレスのG1 CLIMAXがあります。私はG1が年間で一番好きで、何故かというとこれは新日本プロレスのトップ選手によるシングルのリーグ戦なんですけれども、毎日タイトルマッチクラスの試合が組まれて、あんなに極限に追い込まれる選手を観るという。
本当に大変なんですけど、そこで剥き出てくる感情だったり、人間力みたいなものが凄くあったので、今年も物凄いレベルで、北海道から九州までやるので、お近くの方は是非とも会場に足を運んでいただきたいと思います。
夏ってとっても大きい興行が沢山あるので、この本に出てくる大日本プロレスもDDTも両国という大きな会場でビッグマッチもやりますからね。
ただ、ビッグマッチもいいんですけど、初めて行くのであれば後楽園ホールという規模の会場で一体感を味わうというのも素敵だと思いますし、もっと選手との距離が近いところも沢山ありますから、自分が気になる選手や団体が見つかったら、興行スケジュールを調べてみて、近くの会場に観に行っていただければ嬉しく思います。
――今日は、色々なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。最後に、『ウレぴあ総研』読者に一言お願いできますか?
三田:ぴあさんのサイトって、あらゆるエンターテイメントが集まるわけじゃないですか。プロレスっていうのも音楽であったり、お芝居であったり、そうした中で、戦っていくっていうのはちょっと違いますけど、お客さんにプロレスを選んでもらわないといけない。
中邑選手に、「他のエンターテイメントと比べて、プロレスにしかないものって何ですか?」と伺った時に、「生身の人間が命を賭けて戦っていることじゃないですかね?」いう言葉をいただいたことが、今でも自分の中で拠り所になっていて、他にも世の中には楽しいこと、綺麗なこと、美しいことが一杯ある中で、プロレスにしかない、自分の命だったり身体だったりを削りながら戦うという、そこにあるドラマを観に来ていただければと思います。
そこには悔しさも恍惚も全部ありますから。この本がその手引やきっかけになれば、心から嬉しく思います。
神奈川県生まれ。プロレス格闘技専門チャンネル「FIGHTING TV サムライ」キャスター。慶応大学卒業後、テレビ静岡にアナウンサーとして入社。報道・スポーツ・バラエティなど幅広く活躍した後に同局を退社し古舘プロジェクトに所属。1996年プロレス専門チャンネルにキャスターとして開局から携わり、現在も年間120試合以上を観戦・取材し、インタビューや執筆活動など精力的に行っている。