批判されないようなところをすり抜けて笑いにするっていうやり方を、多少は覚えてきた(太田)
太田「あとは、阪神大震災と地下鉄サリン事件の年(1995年)。やっぱりそのときも1年中その話題ばかりだったけど、ネタのウケはとにかくよかったよね」
田中「特にオウムの事件はやっぱりすごくテレビ的だったし、ワイドショー的だったから。あんな集団の幹部がどんどんテレビに出て、売れっ子のキャラクターになっていって、そんななかでリアルタイムでとんでもない事件が起こっていくっていう」
太田「同時進行だったもんね」
田中「ただ、それでもさすがに(オウムネタは)テレビではできなかったので、当時はライブで毎月ネタをやってたんですが、そこでは世の中の関心がオウム一色だったので、逆に言うとそれ以外のネタがウケないんです」
太田「(他が)薄すぎちゃってな」
田中「他の芸能ニュースには誰も関心がないので。ネタによって全然テンションが違いましたね」
太田「ちょっと言っただけで、ドッカーンってウケたもんな。だから、そういうネタはやっとかないと損みたいなところもあるし。
あと、当時はもっと乱暴にいじくってましたけど、いまはもうちょっと批判されないようなところをすり抜けて笑いにするっていうやり方を、多少は覚えてきて。どこかに、そういう時事ネタに対するこだわりはあるかもしれないね。3.11のときもテレビでやったもんね」
田中「3.11のときは、まずテレビのバラエティができない時期があって、お笑い番組も軒並み自粛になりましたよね。その後しばらく経って多少できるかなっていう雰囲気になってきたときに、当時『パニックフェイス』というドッキリ番組をやっていたんですけど、“パニック”という言葉が使えなくなっちゃって。
じゃあドッキリができないならネタ番組をやろうということで、『ネタフェイス』っていう乱暴な名前で(笑)ネタ番組をやったんですよ。
それまで3.11を漫才のネタにするなんて誰もやってなかったんですけど、そこではじめて僕らがやったんです。いまでも大変なことなので当然笑いにすることは難しいんですけど、そのときやったのは“AC”のネタと、チェーンメール、いわゆるデマの問題をネタにしました。特にクレームなどはなかったですけどね」
『さすがの爆笑問題も日和ったか』って言われるのは悔しい(太田)
80年代、90年代、ゼロ年代、そしてテン年代へ――激動の時代をひたすらネタにし続けてきた爆笑問題。無粋とは思いつつ、最後にあえて聞いてみた。「いまの時代、時事ネタはやりやすいですか? やりにくいですか?」
太田「やりにくいと言えばやりにくいんだけど、うまくやればウケる。当たり外れはあるけどね。あと俺らは、テレビでネタをやるってなったときに、『あ、こいつら、あのネタから逃げやがった』って言われる立場になっちゃったから、やらざるを得ないというのも正直あるかもしれない。『なんだ、爆笑問題もさすがにできねえか』って言われるのも悔しいし」
田中「悔しいね。しかもそいつがたまたま見てなかっただけの場合もあるのに、言われるのが……」
太田・田中「『日和ったな』(笑)」
田中「なんだかなあ……(笑)。まあそれが優先ではないんですけどね。面白いかどうかが第一なので」
ときに残酷で、ときに居心地の悪いこの世界を、魔法のように笑いに変えてしまう爆笑問題の漫才。それは芸人としての意地とプライド、そして“この世界をどこまで面白がれるか”という飽くなきチャレンジがあってこそ生まれるものなのだ。
彼らの時事漫才の切れ味は、息の詰まるようなこんな時代だからこそ、より研ぎ澄まされていくのだろう――と、またしても妙にカタくまとめたくなってしまったが、やっぱり漫才は“面白いかどうか、笑えるかどうか”が第一でいいのだ。今回のDVDにも、とにかくゲラゲラ笑える漫才がぎっしり詰まっている。
まずは難しいことは考えずに、爆笑問題といっしょにこの世界を笑ってみよう。見終わるころには、笑いすぎによる心地よい疲労感とともに、さっきまで感じていた息苦しさがすこし楽になっているはずだ。
『2016年度版 漫才 爆笑問題のツーショット』
発売日:2016年6月29日発売
価格:3,800円+税
収録時間:本編80分+特典8分