4.「一生妻だけなんて、無理だから」
「説明は?」
と彼女が言っても、夫は青ざめた顔のまま黙って立ち尽くしていたそうです。
「相手は誰?」
「いつから?」
と重ねて尋ねても、それには一切答えずに夫はただ唇を噛んでいました。
その様子に、彼女の怒りが爆発します。
「私、一生懸命やってきたのに。
家のことだって子どもたちのことだって、あなたにも尽くしてきたのに。
どうして浮気なんかするの!?」
それは、今まで頑張ってきた自分を裏切った夫に対する悲しみでした。
「夫婦は一生お互いを愛して、大事にするものでしょう!?
どうしてあなたは私を裏切るような真似ができるの!?」
彼女が一番言いたかったのはこれでした。「夫婦でいるからには、一生夫を愛して尽くすのが当然」と彼女は思ってきたのであり、また夫も同じだろうと信じていたのです。
しかし、そんな彼女の気持ちを、もっとも聞きたくなかった言葉で夫は打ち砕きます。
「悪いけど、一生妻だけなんて、無理だから」
開き直ったように「ふてぶてしく口を歪めて」夫はそう言うと、呆然とする彼女に向かって
「だって、俺たちずっとセックスレスじゃないか。
お前は平気なんだろうけど、俺は違うから」
と、重ねて言ったそうです。
その声は震えていましたが、自分のしたことを謝る言葉は、夫の口からは出てきませんでした。
5.収まらない怒りと嫌悪感
次の日、彼女は自分の実家に行き、夫が浮気していたこと、セックスレスを理由にされたこと、一言も謝らなかったことを両親に伝え、
「子どもたちとしばらく置いてほしい」
とお願いします。
最初、夫が浮気している事実を両親は疑いましたが、彼女がスマホで撮っていたラブホテルのレシートを見せて「行っていないとは一言も言わなかった」ことを伝えると、二人とも黙り込んだそうです。
昨日の夫の態度を見て、彼女は「もう一緒に暮らせない」とまず思いました。
浮気したことを謝らない姿もショックでしたが、何より彼女を打ちのめしたのは
「一生妻だけなんて、無理だから」
という夫の言葉。
「レスになったことは気がついていたし、それでいいとは私も思っていなかったのよ。
でも、私から抱いてとは言いづらいし、あの人が求めてくれたときに応えようと思っていたの。
それが悪いの?
何も言わずに浮気する自分は悪くないって言いたいの?」
涙を流しながらそう言う彼女は、自分が信じてきた「夫婦の形」が夫は違っていたこと、それを悪いと思っていないこと、まるで「浮気したのはお前のせい」と言わんばかりの夫の態度に、重い衝撃を受けていました。
両親は彼女と子どもたちを住まわせることを決め、彼女はその週末に荷物を持って実家に引っ越します。
その間、夫とは顔を合わせることもなければLINEも電話もなかったそうです。
親の様子がおかしいことに子どもたちは気づいていましたが、彼女が
「パパとママはね、しばらく別々に暮らすことにしたから」
と言うと泣きながら抵抗したそうで、
「子どもにこんな思いをさせることも許せない」
と、夫への怒りと嫌悪感は募るばかりだといいます。
6.別居して考えること
彼女の両親は、「何とか夫を許せないか」「やり直せないのか」と何度か彼女に尋ねたそうですが、
「一生ともに過ごすのが夫婦と思っている人たちだから、“浮気くらい許してやれ”って言いたいのでしょうね。
でも、あの人が反省していないのに、どうやって許すのよ」
と、彼女の心は今でも揺れています。
「それでも夫婦でいるべきなのか」、彼女自身も何度も考えますが、セックスレスを理由に自分以外の女性と寝ることや、「一生妻だけなんて、無理だから」と言えること、そして浮気を謝らないこと、それら夫の姿は彼女にとって受け入れがたいものです。
彼女が出ていった夜に夫からは一度電話があり、しばらく子どもたちと実家に身を寄せることを伝えると
「わかった」
とだけ言って切ったそうです。
「離婚を考えているんじゃないかな?
本当に悪いと思っているなら迎えに来るだろうし、でもあんなことを言った手前、今さら許してなんて言えないんじゃない?」
投げやりにそう言う彼女は、今の夫の状態も自分を愛していない証拠だと思っており、それも離婚に傾く心に拍車をかけています。
父親に会いたがる子どもたちを見ると胸が痛む。たとえば夫が心から侘びてくれたら、やり直す可能性だってあるかもしれない。
だけど、「夫だけを愛し、尽くすこと」が当然だと思っていた自分を裏切った夫の心を、もう一度愛せるかといわれたら自信はない。
いろいろな葛藤が、彼女を苦しめます。
*
お互いを大切にして、一生愛することが夫婦の形だと信じていた彼女にとって、突然わかった夫の裏切りは、許しがたいだけでなくこれからのふたりのあり方を問い直すものでした。
「妻だけなんて、無理」の言葉は、妻としての価値を下げられるものであり、そこに自分の努力は含まれません。
そんな夫と「夫婦」であり続けることの意味を、彼女は新しい気持ちで考えていかなければなりません。