イラスト:上田 耀子

「子どもが生まれてから、妻が変わった」。それはときに夫にとって悪い方向の変化に見えることもあります。

ですが、そんな妻から離婚を言い渡され、夫が知ったのは「変わったのは自分だった」という現実。家庭をないがしろにしたまま、妻の怒りにも気づかずにいました。

妻の変化を自分の都合よく勘違いした夫に、何があったのでしょうか。

1.「働かなくてもいい妻」への鬱屈

36歳のある男性は、同い年の妻との間に長男をもうけ、家族三人で幸せに暮らしていけると思っていました。

妊娠がわかってから妻は会社員の仕事を辞め、フリーランスとして活躍する道を選びます。

「貯金はそれなりにあったから、普通の会社員が過ごせる産休の期間くらいは生活も安心だった」

と男性は振り返りますが、その貯金は主に妻が独立を目指してコツコツと貯めてきたもの。予想外の妊娠でしたが、そのお金があるからこそ男性も妻の退職という選択に反対することはありませんでした。

ですが、いざ妻が出産を終え、我が子との生活が始まってから、男性は家庭の中でストレスを感じるようになった、といいます。

「俺は家族が増えるから前より残業も増やして、一生懸命仕事をしている。

でも、妻は育児もあるだろうけど家でのんびりできて、それが不公平に思えて」

妻が寝不足や体の痛みを訴えることはあるけど、「俺と違って仕事をしているわけじゃないし、休む時間は十分あるじゃないか」と男性は思っていたそうです。

なので、育児にほとんど手を出すことはなく、夜泣きも離乳食もすべて妻任せ。「今日は体調が悪いから」とスーパーの惣菜が夕食に並ぶ日は

「お前は仕事をせず家にいられるんだから、もう少し家事も頑張れよ」

と顔をしかめる自分に違和感はありませんでした。

2.「妻は変わった」

その間、夫はそれまで通り自分の給料は全額妻に渡し、そこからお小遣いをもらう形で暮らしていたといいます。

世帯収入は明らかに減っているけれど、妻の貯金があるから何とか生活はできる。そして子どもが一歳になれば、保育園に預けるなりして妻はフリーランスとして仕事を始めるのでまた収入は戻るだろう。そんな目論見が夫にはありました。

ですが、「貯金は妻が頑張って貯めたもの」と頭ではわかっていても、

「俺に断りなく子どもの服を買ったり食器やおもちゃが増えていたり、『無駄遣いはしていない』って言うけど家のお金なら俺にも相談があるべきじゃないか」

という不満が夫の中に積もっていきます。

お互いに会社員の頃は、服やバッグを買うときは必ず報告があり、また自分も急な飲み会が入ったときなどは妻にひとこと「これくらい使いそう」と連絡していたそうです。それが、子どもが産まれてから妻はいちいち言ってくることがなくなり、その態度が気に入らないというのが夫の本音です。

「俺は毎日汗水垂らして働いているのに」

「貯金だっていつまでもあるわけじゃないのに」

「家でラクをしているくせに」

帰宅すると自分の分と息子の分と別々にご飯を作ることに苦戦している妻を見ても、「おい、子どもが泣いているんだから何とかしろよ」といっさい助けることはありませんでした。

「妻は悪い方向に変わってしまった」

そんな意識が、夫の心を支配していました。

3.同意を得られない自分

ですが、この話を同じ既婚で子どもがいる女友達に話したとき、

「え、奥さんがラクをしているのが気に入らないって、息子さんのお世話をして家事もほとんどやって、それに文句があるの?」

と驚かれ、男性は

「でも、俺は働かない嫁の代わりに何時間も残業して、生活費を稼いでいる。

家の金を好きに使っていいわけないだろう」

と同意してもらえなかったことにムッとしながら答えました。

「使うって言っても、金額の大きなものじゃないでしょう?

いちいちお伺いを立ててから買うのも大変だろうし、計画して使っているなら問題ないと思うけど。

残高は確認したの?」

と女友達に言われ、男性は帰宅後に慌てて通帳を見ましたが、おかしな減り方はしておらず贅沢もしていないことがわかりました。

「あなたは仕事をしているからって家事もいっさい手伝わないみたいだけど、あなたが着ている服も食べるご飯も、奥さんが用意してくれているのよね?

それに感謝はしないの?

まさか、目が離せない小さな子どもを抱えて家事するのがラクだなんて思っていないよね?」

嫌味のように口を歪めて言う女友達の姿が意識に残り、それでも「俺は悪くない」と夫は思い込んでいました。

そんな状態が続いていたある夜、夫は妻から

「離婚してほしい」

と妻の欄が埋められた離婚届を見せられます。