青木早希

「ホールアドバイザー」という複数の音楽家たちからなるアドバイザリー・スタッフによるサポート・システムは、ミューザ川崎のユニークな特徴のひとつ。そのひとりでオルガニスト松居直美の企画「言葉は音楽、音楽は言葉〈パイプオルガンとパントマイムが紡ぐ物語〉」(2月22日(土))には、タイトルとは裏腹に、声としての「言葉」は登場しない。演奏と実際のプログラム作成を委ねられたのが、在仏のオルガニスト青木早希。フランスを代表するパントマイム・ユニット「マンガノマシップ」のふたりと共演する。

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「松居さんからは最初、言葉と音楽をテーマに異ジャンルとのコラボレーションを、というお話でした。相談しながらたどり着いたのが、身体を使った芸術であるダンス、それも抽象的なモダンダンスよりも、具体的な表現であるパントマイムです。私が教えている、ノルマンディ地方のブルゲビュという街の音楽学校でちょうどマンガノマシップのふたりを招聘する計画があり、彼らの活動を知っていたのです」

青木の見立ては大当たりで、彼らも初体験のオルガンとのコラボに興味津々。「さまざまな曲を聴きながら、私が作品の歴史的背景や性格、作者のメッセージを説明すると、“それならこんなこともできる”と、彼らのほうからさまざまなアイディアを次々に提案してくれました」

器楽奏者である青木だが、言葉と音楽は切り離せない関係と言い切る。「演奏はもちろん、教えるという場でも常に意識しています。フレーズや和声、テンポや呼吸。作曲家がそこに託した言葉を読み取ろうとする試みが演奏の基本であり醍醐味です。今回マイムと一緒に表現することで、その言葉を、より具体化しなければならないと感じています。彼らとコラボレーションすることで、ひとつひとつのフレーズがマイムの動作とつながって、より細かい単位で聴こえてくるようになり、演奏がより豊かに、より自由になっている気がします」

コンサートは2幕構成で、第1幕は言葉本来の役割である「対話」をテーマに、第2幕はタイトルに「言葉」を持つ作品で構成。バッハから日本の現代作曲家・柿沼唯まで、時間と空間を縦横に行き来する。

オルガンの魅力は、その膨大な「可能性」にあると青木は言う。長い歴史を誇るレパートリー。何千というパイプが奏でる無限の音色。そしてひとつとして同じ楽器が存在しないという魅力。オルガニストにとっては毎回が新しい出会いであり、新たな発見なのだ。

「どの時代をとってもどこかで聞いたことのある作曲家のオルガン作品を見つけることができます。そんなオルガンの魅力を最大限に活かした、時代をひとっ飛びできる色彩豊かなプログラムです」

「言葉」を、視覚的に表現するマイムと、聴覚的に表現する音楽。言葉の束縛から自由に解き放たれたふたつの芸術が出会い、無限の可能性が生まれる。

取材・文:宮本明