ロードムービーであり、ロックムービー! 『ローリング☆ガールズ』
2015年に放映された『ローリング☆ガールズ』も、ロードムービーが持つ醍醐味をアニメという表現を使って見事に描いた作品の一つ。本作は、各都道府県が独立し、独自に進化と発展を遂げた架空の日本を舞台にした一風変わったアニメ作品です。
物語は、極々平凡な少女たちが、ふとしたきっかけから各地で勃発している諍いを収めるべくバイクで旅に出るところから始まります。彼女たちが巡る旅程は、埼玉を出発し、最終回で岡山と広島へと至るロングコース。
本州の約半分を縦断する過程を描く描写は、まさに、ロードムービーならではの旅情に満ちており、そこにプラスして、各地の名物や県民性がデフォルメされた都道府県の描写でも観る者の目を楽しませてくれます。
サービス精神旺盛なエンターテインメント描写も、本作の大きな特徴です。バトルアクション、SF、ファンタジー、ロボットアニメ、ラブストーリー、青春ドラマ……様々な要素を盛り込んだ奔放なストーリーは、この作品ならではの持ち味であり、各エピソードを彩るド派手なハイライトになっています。
更に、劇中で度々、顔を出す「THE BLUE HEARTS」の楽曲が、このアニメを更に印象深いものにしています。オープニングに「人にやさしく」が、エンディングで「月の爆撃機」と「脳天気」が主演声優によってカヴァーされているのを筆頭に、劇中歌からサブタイトルに至るまで、あちこちにブルーハーツが遺した名曲が引用されているのです。
特別な能力を持たない主人公たちが各地のトラブルを解決する為に、そして、困っている人や悲しんでいる人を助ける為に、"愚直"としか形容の仕様がないひたむきさで困難に立ち向かっていく姿を描く本作のドラマ性と、「青春パンク」の先達的なバンドであるブルーハーツの曲との相性は抜群で、観る者の心を揺さぶる相乗効果を生んでいます。
「ロードムービー」であると同時に「ロックムービー」でもあるアニメ『ローリング☆ガールズ』。決してヒーローではない極々普通の少女である主人公たちが、自身の信念を貫くことで遂には本物のヒーローにまでを、旅とロックに乗せて描いた熱い作品です。
謎が謎を呼ぶ、骨太なファンタジー作品! 『棺姫のチャイカ』
曖昧な記憶しか持たず、自らを「チャイカ」と名乗る少女、チャイカ・トラバント。偶然、彼女を助けた元傭兵のトールとアカリは、自分の父であり、かつて地上を何百年もの長きに渡って収めていた魔王「アルトゥール・ガズ」を弔うべくその遺体を集めているという彼女の願いに力を貸すべく共に旅へと出ます。しかし、チャイカたちの背後には、巨大で邪悪な陰謀が渦巻いており……。
『棺姫のチャイカ』は、ベテランライトノベル作家として知られる榊一郎先生のファンタジー小説を映像化したアニメ作品。
魔法を弾丸のように発射できる「機杖(ガンド)」と呼ばれる機銃が劇中のキーアイテムとして登場するなど、本作独自の設定を用いつつ、中世ヨーロッパ的な文明をベースとした王道のファンタジー世界が特徴です。加えて、ショッキングやシーンやグロテスクな場面も多く、「ダークファンタジー」的なニュアンスも強い作品となっています。
しかしながら、『棺姫のチャイカ』は、ただ単にダークな作品性を売りにしたアニメではありません。チャイカの記憶とガズ皇帝の遺体を巡って展開されるストーリーは、謎が謎を呼ぶミステリアスなシークエンスの畳み掛けによって観る者の心を掴んで離しませんし、登場人物たちの多くが愛すべきパーソナリティを有しており、作品に漂う仄暗さとの間に、絶妙なバランス感覚でもって、明快な娯楽性を生み出すことに成功しています。
各地を旅しながら謎を解く為のアイテムを集め、物語のキーパーソンを訪ねていくというRPGゲーム的な物語の進行に、ロードムービー特有のセンチメンタルな情緒を絡めて描写するシナリオも見応え十分。
そして、とにかくヒロインであるチャイカ・トラバントが可愛いくてカッコ好い! チャーミングな容姿と純朴でピュアな性格の持ち主でありながら、巨大な機杖で敵を撃ち倒すギャップ、また、自身の過酷な運命に翻弄されながらもそこに抗っていく、"ヒロイン"としての薄幸さと勇敢さ……とても魅力的で思わず感情移入をしてしまうキャラクターなのです。
様々な謎を解き明かすべく各地を巡り、様々な人々との出会いと別れを繰り返し、少しずつ真実へと迫って行くチャイカ一行。その長い旅の果てに何が待っているかは、是非とも全話をご覧になって目にしていただければと思います。骨太な名作ファンタジーアニメです。