女にはカネで解決したい夜がある――。
ジェーン・スーさんの新刊『今夜もカネで解決だ』は、ありとあらゆるリラクゼーションサロンについてのエッセイです。
マッサージ、鍼灸、整体、カイロプラクティック、ホットストーン、アロマリンパ、岩盤浴、よもぎ蒸し、ヒノキ酵素風呂などなど、あげていくとキリがない。台湾式、中国式、スウェーデン式と国も様々。リラクゼーションの名のもとに、よくもまぁこんなにも人を癒す技法(商売)をがこの街(東京)に集まったものだなと感心してしまいます。
人気ラジオパーソナリティ、コラムニストとして多忙な生活をおくるジェーン・スーさんが仕事の間を縫って渡り歩いた、食べログならぬ揉みログ(揉まれログ?)的な内容になっています。
ちなみにタイトルが「今夜は」ではなく「今夜も」というところがポイントで、頻繁にリラクゼーション施設へ「解決」しに行っているというわけです。
そりゃあ疲れやすい体質だったり、加齢によっておこる体力の低下の改善ならば、まずは規則正しい生活をして運動すればいい……、言うは易しですが実行はなかなか難しいもの。わかってるわかってる、でもできないという永遠のパズルの解決(あるいは逃避)の糸口としてのリラクゼーション。
とにかく疲れをなんとかしたい(この「なんとか」に具体性はあまりないです)、これを解決するために体に現金を張るのです。
そして、マッサージの体験録の判断基準を考えると、"効くか・そうでないか"or"気持ちいいか・そうでないか"、つまりは主観でしかないのでは? という向きもあるかもしれませんが、ここで「お江戸日本橋チャイナマッサージ」の項目の一文を紹介させてください。
出迎えてくれた女性が、そのまま施術を行ってくれる事になりました。彼女は指先にたっぷりクリームを塗り、私の首筋を耳の付け根から鎖骨に向かって滑らせます。弱すぎず強すぎず、いたわるように上から下へ。うむ、上手い!
ジェーン・スー『今夜もカネで解決だ』P98「お江戸日本橋チャイナマッサージ」より
リズミカルな筆致で紹介される施術は「気持ちよさそう」と思うことうけあいです。
そして「他人の手で(お金を支払って)癒やしてもらう」ことは、技術や効果だけで評価が決まるものではないのではないでしょうか。技術が悪くなくても女性施術者にやけにうやうやしく対応させる「男性目線」のホスピタリティを提供するサロンだと、女性としてはどうにも興が削がれてしまいます。
そしてまたあるときはサロン側の施術への大仰な効果説明に対して「薬機法」に想いをはせるも、面白そうなのでついつい挑戦してしまう。本書の中にも出てくるエピソードは、リラクゼーション施設めぐりをしていると「あるある」と思うことばかりです。この本自体が上手いマッサージのような読後感です。