「Eテレに毎日お世話になってます」というママは少なくないはず。3歳の息子に手を焼く筆者もそんな一人です。
やんちゃ盛りのわが子が0歳時から一貫して、いたずらの手を止めて夢中になる魔法のような番組が「にほんごであそぼ」。どれどれ…と一緒に見てみると、これが面白いんです!
伝統芸能、耳に残る方言、懐かしい手遊び歌と、大人も楽しめるコーナーがぎっしり。
この番組に2003年の放送開始時から携わる久保なおみさん(NHKエデュケーショナルこども幼児部 シニアプロデューサー)に、番組づくりの裏側をお聞きしました。
そこには、長く愛されてきた番組ならではの思いが隠されていました。
「子どもたちに伝えたい」伝統芸能の思いが集結
――まず驚くのは、伝統芸能を解説するのではなくそのまま見せるというスタイルです。最初からそういったコンセプトだったんですか?
実は、もともと「にほんごであそぼ」は今のように伝統芸能の方にたくさん出ていただこうという番組ではなかったんです。
最初は、子どもたちと同じ目線でこれから日本語を獲得していく立場の“コニちゃん”がメインプレゼンテーターということだけが決まっていて、そのあとでなにか日本の伝統芸能に由来する体操のようなものを作りたいとNHKの伝統芸能班の方に相談したところ、「それならやっぱり狂言じゃないでしょうか」とアドバイスをいただいたのが始まりです。
狂言師の野村萬斎さんにご相談に伺うと、萬斎さんはもともと「伝統芸能も、子どもたちに伝えないと発展していかない」という思いがおありで、「日本語を扱うときは、文字を追うだけではなく“体”を使って声を発する方法を知ることが大切です。私は日本語を声に出すプロとして、お力になれると思います」とおっしゃってくださって。
それから講談師の神田山陽さんは、あれだけのエネルギーをもってたくさんの言葉を伝えることのできる方はなかなかいないですよね。
どちらも日本語を扱うプロなので、そんな経緯で、15年前に萬斎さんと山陽さんとコニちゃんと子どもたちとでスタートしたんです。
――この番組で初めて伝統芸能に触れる子どもも多いでしょうね。
そうですね。萬斎さんが参加してくださったこともあり、番組が伝統芸能界からも注目されて、いろんな方が出たいと言ってくださって。
人形浄瑠璃文楽も、三味線の鶴澤清介さんがお子さんと番組をご覧になって「文楽も子どもたちに伝えていきたい」と豊竹咲甫太夫さんを説得して出てくださったのが始まりです。
出演されるようになってからは町を歩いていて「『にほんごであそぼ』の人だ」と声をかけられたり、文楽の舞台を見にくる子どもたちが増えたって喜んでくださっています。
たくさんの“日本語の宝石の原石”に出会ってほしい
――子どもには難しそうな伝統芸能や名文・名句にも、説明はほとんどないですよね。意味を伝えるという部分はあえて考えていないのですか?
「意味を説明しない」ということは、番組を立ち上げたときからの“鉄則”です。日本語を扱う番組で意味を説明し始めたら子どもたちが飽きてしまうだろう、それよりも、まず音として子どもたちが「面白い!」「カッコいい!」と感じ、覚えたくなる、能動的にかかわりたくなることが大事だろうと最初から思っていました。
当時、そういう言葉を“日本語の宝石の原石”と呼んでいたんですが、小さいころにそんな美しい詩や名文に出会えれば、中学や高校の授業で「あ、これどこかで聞いた」「知ってる」という喜びとともに再会してもらえるんじゃないかと。その“どこか”が「にほんごであそぼ」だと思ってくれなくてもいいんです。
ただ、時代背景や季節などは映像を作るときにちゃんと調べて、事実と相違のないように気をつけています。
――“日本語の宝石の原石”とは素敵ですね。たとえばどんなものがあるんですか?
じつは、「言葉のランク表」というものを秘密裏に作っています。
監修の齋藤孝先生とも「鉄板の言葉は毎年入れるようにしよう」ということにしているんですが、そうすると「いつ見ても同じようなことやってるよね」ということになりがちなんです。
「言葉のランク表」のSランクは番組で毎年取り上げたいもの、「寿限無」の長い名前や「平家物語」の“祇園精舎”、「枕草子」の“春はあけぼの”、宮沢賢治の「雨ニモマケズ」などが入ります。
Aランクは、毎年は登場しないけれどぜひ覚えていてほしい言葉。Bランクは、覚えなくてもいいけれど触れてほしい言葉、という風にランク分けしているんです。
Xランクもあって、ここには「でんでらりゅうば」や「ちゃわんむしの歌」など授業では絶対出会わないだろうけれど面白くて覚えたくなるような言葉が入ります。
――子どもが積極的に好きになれる工夫が散りばめられているんですね。
幼児番組はある程度年齢が上がったら卒業するものも多いんですが、この番組は幼稚園から小学1、2年生ぐらいまで見ていたっていう子が、高校生になって「あの頃はわからなかったけど、今見るとわかる」って帰ってくることがけっこうあるんです。それがすごく嬉しくって。
齋藤先生とも、「きっと日本の子どもたちの国語力は確実に上がっている、調査すればよかったね」って話しているぐらいなんです(笑)。