方言は「かわいい」「カッコいい」もの

――方言のコーナーもありますが、方言も音の面白さに注目されているんですか?

音の面白さもありますが、名文・名句が時代を生きてきた「縦軸」だとすると、方言は地域的な広がりを持った「横軸」だと思うんです。本来、日本の言葉は各地で違っていて、生活に根ざした「生きている言葉」がたくさんある。そんな方言を面白い、カッコいいって思ってもらいたいんです。

でも今は、方言を話せる人がすごく減っています。じつは「雨ニモマケズ」などの名文を方言で暗唱するコーナーは、方言研究の先生からすごく評判がよくて(笑)。

文化遺産だ、画期的だと言われて、「NHK for school」(授業で使うことを目的に配信されるデジタル教材サービス)でクリップ化して、学校の授業でも使えるようにしています。

ちーむ・をとめ座が歌う「恋そめし」も、きっかけは方言です。

「うん、好きよ」という一言をいろんな地方の女の子たちがそれぞれの言葉で伝える歌なんですが、「しぇらぐ好きだじぇ」とか「ぶち好いちょるよ」をかわいいと思ってもらいたい。そうすれば、自分の地域の言葉もけっこう素敵だなって思ってもらえるんじゃないかなと。

「ちーむ・をとめ座」がキュートな方言を披露する「恋そめし」も子どもたちに人気 ©NHK

番組初の人形劇をはじめ、新たな企画も

今年度は定番のかるたコーナーで「百人一首」を取り上げているほか、狂言コーナーで馬や猿など「動物の型」のシリーズがスタートするなど、新たな企画も展開しているそう。新企画の見どころについても伺いました。

――「百人一首」も“音”に注目しているんですか?

百人一首は何年か前から、どう扱うのが一番いいかなという模索はずっとしていました。

ただ、百人一首は音だけ扱えばいいというものではないので、いくつか工夫もしています。たとえば、昨年度までかるたはアナウンサーによる朗読のみでしたが、今回は和歌の意味を踏まえておおたか静流さんに感情を込めて“うたって”いただいて、思いも感じてほしいと思っています。

それから、特に有名な和歌は『にほんごであそぼ』初の人形劇・百人一首劇場で、世界観に触れられるようにと考えています。

――狂言コーナーは、馬や猿など“動物の型”がテーマということですが。

これまで番組で動物の型だけにフォーカスしたことがなかったのと、ことしは百人一首が入って全体的に少し難しくなるかなという思いもあったので、バランスをとって動きで見せられるものにしたいとお願いしたんです。

――たとえば「馬」で馬と馬上の人が同じリズムで体を揺し、そこに“馬が合う”という言葉が出てくる流れは、説明がなくてもスッと理解できますね。

それは萬斎さんが「馬が合う」ってもともとこういう意味なんですよ、と教えてくださったんです。「言葉」と「動き」が一体になっている、狂言という芸能の特徴なのかなと思います。

藤原道山さんによる「唱歌」コーナーは、小さい子どもにもおすすめ ©NHK

2歳児をも魅了するヒミツは「音や動き」の楽しさ

――番組全体の対象年齢は2歳から小学校低学年くらいとのことですが、2歳の子にも楽しめるコーナーにはどんなものがありますか?

歌や狂言のコーナー、あとは“しょうが(唱歌)”ですね。尺八演奏家の藤原道山さんから、「和楽器には、楽器の音を言葉で伝える“しょうが”というものがあって、これがすごく『にほんごであそぼ』に向くと思うんです」とご提案いただいて始めたんですが、ふたを開けてみたら小さな子の方が楽しんでくださっているという反響もありまして。

音や動きで楽しめるものは小さい子にも伝わりやすいのかなと思っています。

――反対に、大人に観てもらいたいという意図もありますか?

子どもだけで観るより、お子さんがおじいちゃんやおばあちゃん、お父さんやお母さんと一緒に見ていただけたら得るものが大きいのではと思っています。

以前、「この番組は、じいじの出番です」ってお手紙をくださったおじいちゃんがいて。普段は孫と共通の話題がなく、一緒に遊べなかったりするけれど「この番組には自分が知っていることが出てくるから共通の話題もできるし『おじいちゃんすごい!』って尊敬の目を向けられる」って。

――おじいちゃんが突然「雨ニモマケズ」を暗唱したら、お孫さんはビックリしますよね(笑)。

太夫・三味線・人形の三業が一体となって演じる人形浄瑠璃文楽も、子どもたちに伝えたい伝統芸能の一つ ©NHK

――早い時期からわが子に美しい日本語や伝統芸能に触れてほしいと思っているお母さんたちは多いです。そんなお母さんたちへアドバイスをいただけますか?

名文にしても伝統芸能にしても、与えるのではなく一緒に楽しめるといいのではと思います。まずはお子さんの反応を大切に見ていただきながら一緒に楽しんで、その中からお子さんの好きそうなものを見つけて広げていけるといいんじゃないかなと。私も子どもが2人いますが、好きなものってそれぞれ違いますし。

特に1~2歳くらいの子って、発音がはっきりしなくても明確に何かを覚えて言おうとしている瞬間があるんです。それに親が気づいて「今、●●って言ったんだね」と声がけすると、どんなに小さな子でもすごく嬉しそうに笑うんですね。

――伝わった、っていうことが嬉しいんですね。

お子さんの言葉や反応に耳を傾け、目を光らせて、お子さんがキャッチしているものに気づいてあげられると、コミュニケーションが豊かになっていくと思いますね。

『にほんごであそぼ』も、そんなきっかけの一つにしていただきたいです。伝統芸能の皆さんも「子どもたちに伝える」ということをすごく大切にしてくださっていますし、今15年目ですが、今後もできるだけ長く続けていけたらと思っています。

『にほんごであそぼ』
Eテレ (月)~(金)午前 6時35分~6時45分
再放送 (月)~(金)午後 5時00分~5時10分

©NHK

ライター。業界紙、エンタメ系雑誌記者を経て、現在フリーランス。日々の暮らしに「へぇ〜」のアクセントを提供したいと日々勉強中。関心あるテーマは教育、お金、哲学。好きな本のジャンルは児童書・YAで、特技は物語の世界に入りこむこと。