インターネットの女性向け掲示板には、育児中のママの率直な思いや悩みがあふれています。
中でも共感を集めるのが「自分の子どもはかわいいけど…育児は楽しくない!」という声。そう、ママだからって育児がいつも楽しいことばかりじゃないですよね。でも、中には「赤ちゃんの検診時『育児は楽しいですか?』の項目に『いいえ』と答えたら“育児ノイローゼ予備軍”扱いを受けた」というママも…。
「育児が楽しくない」って思ってしまう私って…ダメなママ? そんなモヤモヤの上手な対処法を、これまで2万人のママに子育て電話相談を行った実績を持つ「一般社団法人.子育て心理学.協会」代表理事・東ちひろ先生にうかがいました。
幼稚園講師や小学校教諭、中学校相談員を歴任し、ご自身も一男一女のママでもある東先生から返ってきたのは、育児の理想と現実を知り尽くすからこその、勇気をもらえるアドバイスでした。
“母性神話”がモヤモヤの正体!?
――これまで2万人のお母さんのご相談にのられてきた中で「育児が楽しくない。つらい…」という声はありますか?
「もう、ほとんどみんなそうなんじゃないでしょうか。講座や相談に来られる方は皆さん、最初は『子どもを変えたい』『子どものこういうところをどうにかしたい』っていう内容が多いんですが、話していくにつれ、うまくいかないもどかしさとかイライラ、不安とか焦りとか、お母さん自身の中に持っているものが突きつけられるんですよね」
――ママ自身の“苦手意識”や“自信のなさ”が表にでてくる感じですか?
「そうですね。雑誌などでは育児の楽しい部分やきれいな部分が注目されがちですけれど、現実はうんちとか下痢おう吐の始末もしなくちゃいけませんし、育児ってそもそも泥臭いところとのすり合わせです。決して楽しいだけではなく、むしろ大変なことの方が多いともいえます。でも、みんなそういうことをあまり口に出しては言わないですよね。
私は、そこに“母性神話”みたいなのがありはしないかな、と思っているんですね。
お母さんが『育児は楽しくない』と思っちゃいけない。どんなときも子どもはかわいいし、育児は楽しい“はずだ”…。そう思わされる風潮がありはしないかと思うんです。でも現実は、子育てって8割くらいは大変なことばかり。そのギャップがすごくあるのかなという気はしています」
――いまだに「3歳までは母親が家で育てるべき」なんてことが言われたりもします。
「言いますよね。神話、都市伝説みたいなものがあるのかなぁと思います。その理想と現実とのギャップがストレスになるんですね。さらに、そのストレス自体を“持ってはいけない感情”と思ってしまい、今度は自分を責めてしまう。そういうお母さんってとっても多い気がします」
育児マンガが理想と現実のギャップを埋める
――そんなお母さんに、東先生はどんな風に声掛けをされるんですか?
「私は『大なり小なりみんなそういう思いを持って子育てをしていますよ』と申し上げます。じゃないと『私ばっかり…』って思ってしまうんですね。
育児ってとかく閉鎖的になりやすいです。まわりのお母さんはみんなそういうマイナスの面を見せないけれど、自分のことは見えすぎるほど見えてしまう。昨日子どもにひどいことを言ってしまったとか、表に出さない感情も全部わかってしまう。
なので、たいていほかのママよりも自分の方が劣って思えて、『自分はダメだな』って思ってしまうんですね」
――理想と現実のギャップを埋めるにはどうすればいいのでしょうか?
「たとえば育児マンガが今ものすごく売れていますけれど、あれは子育てのリアルな部分が出ているものの方が人気なんですよね。読んでみると、失敗談やつらいという気持ちも素直に出せていて、ママが感じるギャップが埋められているように感じます」
――育児マンガには、読んでいるとちょっと気持ちが軽くなる部分があります。
「そうでしょう。きっと、手に取ったお母さんたちは自分自身のギャップを埋めたいけれど、現実的には埋められていない。
育児マンガに登場するママは素直に『つらい』という思いを表現でき、ギャップを埋められているように感じるので、そこに共感しているのではと思います」