毎年11月の第3木曜日はボジョレーヌーボの解禁日。今年は11月17日。早くも夏頃から、デパートやスーパーでは、予約のお知らせを目にした。また山梨県ワイン酒造組合では、11月3日を山梨ヌーボー解禁の日に設定。山梨産ワインを盛り上げようと、いろんな催事を行っている。
日本における1年間のワイン消費量は、約25万キロリットル。平成10年前後にポリフェノールブームが起きた頃(約30万キロリットル)に大きく伸びた反動で落ち込んだが、近年消費量を伸ばしつつある。かつてワインブームと呼ばれたものは何度かあったが、ワインとは名ばかりのイカサマぶどう酒が出回ったことも少なくない。またバブル期の浮かれた騒ぎが落ち着いたことで、ようやくワインが根付いたと言えるのかもしれない。食べ物を取り扱うグルメ漫画がたくさんあると同時に、お酒をテーマにした漫画も少なくない。
『BARレモン・ハート』
双葉社の「漫画アクション」で連載中の『BARレモン・ハート』(古谷三敏)。作者の古谷三敏は小学館の「週刊少年サンデー」で連載されていた『ダメおやじ』を思い出す人も多いだろう。『ダメおやじ』でもキャラクターの言動に垣間見られることがあったが、酒や料理の薀蓄も豊富で、その分野の本も出版している。それが色濃く出ている作品が、この『BARレモン・ハート』だ。
ラム酒の名前でもある“レモン・ハート”のバーを経営するマスターが、訪れる客と共にゆったりと過ごす時間が描かれている。フリーライターの松ちゃんと何やら怪しげなメガネさんの2人が常連。彼らを始め、様々なお客さんがマスターに酒をオーダーしている。話の中では、毎回1本の酒が解説と大ゴマでドーンと紹介される。この『BARレモン・ハート』に限らず、古谷三敏作品は大人しいコマ割りがほとんどなので、それだけでも大きなインパクトを感じる。
とある話では、マスターが松ちゃんにせがまれて、ワインを贈り物とする相談に乗ることがあった。実際にどんなワインを選んだかはコミックスを読んで欲しいが、薀蓄と合わせて『なるほど』と思わせるワインの選択だった。日本のワインも次第に評価を上げているこの頃、今飲み比べをすれば、かなりの評価を得られるのではないだろうか。赤ワインか白ワインのどちらかに、山梨のワインが入っているかもしれない。
『酒のほそ道』
日本文芸社の「週刊漫画ゴラク」で連載中の『酒のほそ道』(ラズウェル細木)は、ウンチクもあるものの、エッセイ色の雰囲気が強い漫画だ。主人公のサラリーマン、岩間宗達が酒と食べ物、そして友人知人に囲まれて送る日々を描いている。岩間宗達は『BARレモン・ハート』のマスターや、他のグルメ漫画の主人公達のように、ガッチリした見識のキャラクターではなく、状況によっては「それも良いかも」とフラフラしてしまうところがある。ただそれだけにより人間味のあるストーリーが展開されている。
800話を越える長期連載だが、1回が6ページ程度の短編のため、コミックスは29巻までとなっている。しかしどの話もテンポが良く『あるある』と思わせる出来事も多い。言うなれば漫画界の『くいしん坊!万才』のような存在だろう。岩間宗達は、連載開始時には29歳だったそうだが、最近では随分と親父的な発言や趣向も増えてきた。作者の好みが映し出されているのかもしれないが、まだまだ飲み続けて欲しいキャラクターだ。
『ソムリエール』
そして集英社の「ビジネスジャンプ」で連載されている『ソムリエール』(原作:城アラキ、作画:松井勝法)。男性がパティシエでソムリエであるように、女性はパティシエールでソムリエールとなる。つまり女性が主人公だ。
主人公の樹カナは、両親を交通事故で亡くして後、ソムリエールを目指してレストランで働き始める。彼女に限らず、登場するキャラクターがこれでもかと言うくらいに、トラウマだったり親との軋轢だったりを持ってるのには、ちょっと行きすぎだろうと思うが、話の展開に関わっていることもあるので、大目に見ることにしよう。そんな事情もあってか、前の2作品と比べて重い展開のストーリーが多い。そして何らかの形でワインが登場して、トラブルを解決し、ハッピーエンドとなるのが『ソムリエール』ひとつのパターンとなっている。
強引ではあるものの、まるで水戸黄門の印籠か、遠山の金さんの桜吹雪でも見ているような痛快さに通じるところがある。登場する酒を、ほぼワインだけに限っているものの、ドラマの多彩さは他の作品に勝るとも劣らない。つまりワインの多彩さにも繋がっているのだろう。
日本におけるワインの消費量は増えつつあるが、それでも1人当たりの年間ワイン消費量は2リットル余り。酒全体に占めるワインの割合も、わずか3%に過ぎない。まだまだビールや日本酒に押されているのが現状だろう。長引く不景気の中で、急激にワインの消費が伸びるとは考えにくい。しかしスーパーや量販店を覗けば、実にお手頃なワインをたくさん目にすることができる。ワインも気どって飲むだけのものではなく、日常的に消費するお酒でもあったはずだ。まずは漫画を通してでも、ワインに親しんで見るのも良いかもしれない。