『喜劇 愛妻物語』9月11日(金)公開 ©2020『喜劇 愛妻物語』製作委員会

2014年の『百円の恋』(監督:武正晴 主演:安藤サクラ)で第39回日本アカデミー賞最優秀脚本賞に輝き、性への妄想を膨らませる田舎の中学生たちを描く2016年の青春ムービー『14の夜』で監督デビューを飾った足立 紳監督。

そんな足立監督の第2作『喜劇 愛妻物語』は、「セックスレスの妻とセックスする」という悲願を叶えようとする売れない脚本家の姿を、自らの実体験をほぼ全面的に反映させる形で映画化した痛快コメディだ。

いや~面白過ぎるからお腹を抱えて笑っちゃうけど、冷静に見つめ直すと、程度の差はあれ、口喧嘩をしながらも長年連れ添っている劇中の夫婦は、どこにでも転がっている普遍的な愛の形を代弁するもの。

そこで、足立監督に撮影の裏話はもちろん、そこからさらに突っ込んで体験者だからこそ語れる夫婦円満の秘訣を聞いてみた!!

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夫に向かって「死ね!」「消えろ!」と罵りまくる終始不機嫌な妻のチカを水川あさみが怪演

年収50万円の売れない脚本家・豪太と、そんな夫に絶望している酒好きの妻・チカ。

『喜劇 愛妻物語』は、結婚10年目で倦怠感の真っただ中にいるそんなセックスレス夫婦を笑いと涙で描いた痛快コメディだ。

稼ぎがほぼゼロで家でゴロゴロしているだけなのに、妻とのセックスの機会を虎視眈々と狙っているダメ夫の豪太を演じているのは濱田岳。

そして、夫に向かって「死ね!」「消えろ!」と罵りまくる終始不機嫌な妻のチカを水川あさみが怪演!

このふたりがこんなに破天荒な夫婦の役を引き受けたのも奇跡だけど、それ以上に驚くのは、漫画以上にくだらなくてバカバカしいエピソードの数々、思わず涙の劇的な展開のほぼすべてがメガホンをとった足立紳監督と実の奥さんとの過去の実際の出来事ということ。

しかも、普通ならとっくに離婚してそうなのに、いまも奥さんは足立監督の映画作りを全面的にサポートしているという衝撃の事実。

いったいどうして? そこに隠された夫婦円満の秘密を、撮影を振り返ってもらいながら探ってみた。

足立 紳監督

痴話喧嘩ばかりしている夫婦=これもひとつの絆

――本作のベースになった同名の小説を書かれたときもそうですけど、ご自身の夫婦生活をこんなに開けっ広げに映画にして、奥さんから怒られなかったですか?

台本も下書きから読んでもらっていたのでそれは大丈夫だったんですけど、小説が発売されたときに、思いのほか周りから「こんなことまで書いちゃって大丈夫?」という反応があって。

私小説というジャンルもあるぐらいだし、僕はそんなに珍しいことだとは思っていなかったんです。でも、内容がちょっと生々しかったので驚かれちゃったのかな?って、そのときに初めて気づきました(笑)。

――実際には、あんなに喧嘩ばかりしているわけはないでしょうしね。

いや、実際の奥さんは、映画よりもっと酷い口調だし、間違いなくもっと怒っていて。「消えろ!」「死ね!」なんていうワードはもう日常茶飯事なんですよ(笑)。

――じゃあ、奥さんの運転でロケハンに行ったりするのも本当の話なんですか?

はい。僕、免許を持ってないですから。台本の清書を奥さんにパソコンで書いてもらうのも本当のことです。

――となると、奥さんが清書しながら、自分のセリフをより過激にしてきたりなんてことも?(笑)

小説を初めて書いたときは、逆にソフトな言い回しになって上がってきたから気持ち悪くて。

「何を考えているの?」っていう感じで書き直してもらったんですけど、最近書いた同じ夫婦の小説ではより過激な言葉に変えてきましたね(笑)。

――役所広司や佐藤浩市といった実際の俳優の名前が性的なシーンで交わされるのも面白かったですが、流石にあれは映画を面白くするためのフィクションでは?

いや、あれも僕と奥さんの生の会話です(笑)。

プロデューサーは「一応、確認をとらなきゃ」って慌てていたけど(笑)、確認したのかな? でも、ああいうやりとりって、実名でやらないと面白くないですものね。

――確かにそうですよね。ああいう会話もあったりしながら、ただの夫婦の痴話喧嘩になっていないところがよかったです。

ただの痴話喧嘩だけ映されても、観ていてしんどいですからね。

それに、こういった痴話喧嘩ばかりしている夫婦もありなんじゃないか? ということを提示し、これもひとつの絆と言えないでしょうか? ということを投げかけたいという想いもあったんです。

夫婦ってお互いのいちばんみっともないところを見せ合っちゃう他人同士だし、どこの夫婦も、蓋を開けたら似たような感じだと思いますからね。

『喜劇 愛妻物語』9月11日(金)公開 ©2020『喜劇 愛妻物語』製作委員会

――それにしても、こんなに生っぽい豪太とチカの夫婦を濱田岳さんと水川あさみさんがよく演じてくれましたよね(笑)。

本当にありがたかったですね。別にカッコいい役でもないし、この役を演じておふたりが得することは何もないですからね(笑)。

ただ、観客をイヤな気分にさせても仕方がないし、逆に、こういう夫婦の形もあるのかなというところで共感してもらうためにはどうしても俳優の力を借りなければいけなくて。

感情表現のバランスを繊細に考えながら演じるのは難しかったでしょうし、相当助けてもらったと思っています。

――おふたりが振り切ってやられていたのがよかったです。

本当に、この夫婦の役を全身で引き受けてくださったような感じがします。

僕も現場で自分たち夫婦の話をするのはちょっと照れ臭いので、僕たちを演じてもらうのではなく、水川さんと濱田さんに完全にお任せして「おふたりの夫婦像を作ってください」というお願いをしました。

――では、監督は現場では「もっと過激に!」みたいなことを言うだけだったんでしょうか?

台本(ホン)読みのときに、おふたりはもうすでにあの夫婦を作り上げてきていたので、現場では特別なことは何も言ってません。「もうちょっと声を張ってください」って時々言うぐらいでしたね。