夫はすべてをうやむやにして、家族を無理矢理ひとつにしようとしているじゃないですかね~

――あのシーンは確か濱田さんが少し笑っているところから始まりますが、あれは濱田さんがご自身の感覚で笑われたんでしょうか?

いえ、あれは台本に書いてるんですよ、僕。

濱田さんから現場で「このときの旦那の感情はどんなっているんでしょうね?」って聞かれたときも、「豪太はこの期に及んでも、すべてをうやむやにして、家族を無理矢理ひとつにしようとしているじゃないですかね~」という、僕の素直な感覚を伝えました。

あのときの奥さんは、かなりの決意で「もう別れる」って言ったと思うんですよね。

そうなったときに、その決意を覆すためには、もう、無理矢理うやむやにする以外にない。同じような局面は実際に何度もありましたし、それで乗り越えてきたようなところもありますからね(笑)。

――奥さんの「私がいると甘えるから」みたいなセリフもリアルでしたけど……。

実際はそうは言わなくて、「もう終わった」「もう、絶対に無理!」って言いながら泣いちゃったことが何度かあって。

そうなったときに、こっちは何も武器がない。

将来の展望もないし、「俺、来年はこういう状態になっているから」って言えるような説得材料もないので、ある種、力ずくのなし崩しで乗り越えるしかないんです。

――それを実際に経験された監督が書かれた台本なので、すごく説得力がありました。

ウチの奥さんは、そういうなし崩しで崩されてしまうような情の深い人だと思います。

それは愛情ということなのかもしれないですけど。

――監督の奥さんがその人で本当によかったですね。

本当にそうです。僕の人生の中でも相当ラッキーなことだったと思います(笑)。

普通だったら、絶対に見捨てられているでしょうからね。

奥さんは100対0で負けているチームを、一生懸命応援してくれているような感じ

――オフィシャルの監督のインタビューを読んだら、奥さんは台本の読み合わせにつき合ってくれたり、自主映画で撮る場合のことも想定してお金をこっそり溜めていてくれたり、すごく応援してくれていますよね。

そうですね。100対0で負けているチームを、一生懸命応援してくれているような感じだと思います(笑)。

――それだけに、今回の映画化が決まったときは、めちゃくちゃ喜ばれたんじゃないですか?

まあ、撮れることになったときは「やっとだね」って喜んでいました。

ただ、感情が爆発するようなタイプじゃないから、文句を言うときは激しいのに、喜ぶときはなんか“その程度なの?”っていう軽いリアクションで。

逆に、仕事や企画が流れたときの悲しみ方はスゴいです。僕とほぼ同じぐらい、彼女も落ち込みますね。

――完成した映画をご覧になったときは、流石に感情が露になったのでは?

いきなり完成品を観たのではなく、意見を聞くために編集段階のラッシュをまずは観てもらったんです。

その編集ラッシュのときに、観ながら後半で泣いていたから、これはイケるなと思いました。たぶん、辛すぎた自分の過去を思い出していたんでしょうね。

でも、観終わったら、「こっちからのカットは撮ってないのか?」とか「もっと寄りのカットはないのか?」って、けっこううるさく言ってきたので、また喧嘩になっちゃいました(笑)。

ずっと夫婦円満でいられる秘訣は?

――お聞きすればするほどご夫婦の仲のよさが伝わってきましたが、夫婦生活の数々の危機を乗り越えて今年結婚18年目を迎えた足立監督にここで質問です。ずっと夫婦円満でいられる秘訣は?

秘訣というほどのことでもないですけど、僕はこの映画の豪太のように、奥さんにどんなに拒否されても求め続けるということをひとつ心に決めていますね。

周りの旦那さんたちの話を聞くと、どうも拒否されるとけっこう傷ついて、それから求めなくなっちゃうみたいなんです。もちろん、僕も傷つくことはありますよ。

でも、そこを乗り越えようって思っているんです。

――映画の中の濱田さんも、「絶対にしないから」という水川さんに諦めずにガンガン行きますものね(笑)。

保育園で出会ったどこかのお母さんだったか、誰だったかちょっと忘れましたけど、そういう女性にいまみたいな話をしたら、「それはいいことだ」ってすごく褒められたことがあるんです。

それで調子に乗って、よりガンガン行くようになりました(笑)。

――セックスレスのご夫婦も最近は多いと聞きますが、その旦那さんにもご自身のように「求め続けた方がいい」というアドバイスをしますか?

セックスレスと言っても、旦那の方がずっと断り続けていたり、いろいろな形があると思います。

でも、奥さんに断り続けられている旦那さんには、とにかく、何度も何度も挑み続けることが大切だって伝えたいですね。

――そのためには、豪太のように奥さんの肩を揉んだりして……(笑)。

肩を揉むというより、日常の家事育児をちゃんとやるってことですよね。

ウチの場合は、それをやったら、ようやく求める権利が得られるんですけど、最近は奥さんがそれを察知するようになって。

僕が火事育児に力を入れ出すと「もう、いい! やるな!」って言われるので、長いスパンできっちりやるようになりましたよ(笑)。

足立紳監督は劇中の豪太と同じように、いつもニコニコしていて親しみやすい、とてもチャーミングな人でした。

ああ、この人が愛されるのは分かるな~と瞬時に思ったぐらい、いい意味での“人たらし”。映画の内容そのままに、飾らず、どんなことでも包み隠さず話してくれるし、ネガティブなことを一切言わず、奥さんや数々の試練に何度でも立ち向かっていくから、不思議と応援したくなる。

足立監督の人柄にこそ、夫婦円満のすべてが詰まっているのかもしれない。

 

映画ライター。独自の輝きを放つ新進の女優と新しい才能を発見することに至福の喜びを感じている。キネマ旬報、日本映画magazine、T.東京ウォーカーなどで執筆。休みの日は温泉(特に秘湯)や銭湯、安くて美味しいレストラン、酒場を求めて旅に出ることが多い。店主やシェフと話すのも最近は楽しみ。

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