濱田岳さんのダメダメな感じがすごくいい
――濱田さんのあのダメダメな感じも、彼が勝手に作りあげたものなんですね。
そうですね。僕は濱田さんの、あのダメでヘラヘラした感じがすごくいいなと思っていて。
濱田さんは僕を現場で見て「“なぜ、この監督はこんなにヘラヘラしているんだろう?”と思って、それを真似してみた」っておっしゃってましたけど(笑)、罵詈雑言を受けても怒らず、ヘラヘラと吸収している感じがすごくいいなと思いながら見ていました。
――でも、それは普段の監督の姿だったりもするわけですよね?(笑)
自分ではそんなにヘラヘラしている自覚はないんですけどね。ただ、奥さんからギャンギャン怒鳴られたときは実際にヘラヘラしているかもしれない。
と言うか、ヘラヘラするしかないっていうのはありますね(笑)。
――自分たちとは違う夫婦とは言え、そこで行われることは監督の実人生を反映させたものなので、恥ずかしくなっちゃうこともあったのでは?
現場で僕が恥ずかしがっていたらダメだと思うので、そういう感情は一切捨てました。
水川さんも濱田さんも「このときはどんな気持ちだったの?」とか、実際のことを敢えて聞いてこなかったですしね。
――それでは、監督が演出でこだわったところは?
夫婦や家族を題材にした映画はけっこう多いけど、本当の夫婦っぽく見えるものはそんなにないな~と思っていたから、本当の夫婦のように見えるものにしたいという想いはありました。
ただ、そのために何をしたらいいのか? は僕にも分からなかったので、実際にやったことと言えば、僕の家に来てもらって台本読みをしたことぐらいです。
――撮影もご自宅でやられたそうですね。
ええ。その台本読みやリハーサルのときに、おふたりがこういう家で生活をしている夫婦の感じというのをつかんで、それを役に反映させてくれたんです。
――水川さんは今回の役のために、ご自身の考えで少し太られたみたいですね。
そうですね。初めてお会いしたときからクランクインまで4ヶ月ぐらいはあったと思うんですけど、その間に大きくなってくださって。
台本読みで久しぶりに会ったときにすぐ“あっ、背中がデカいな”と思ったし、それは嬉しかったですね。
――濱田さんもホテルのシーンではずっと全裸だったのでビックリしました(笑)。
そうですよね。子供の前ですっぽんぽんになることなんて、なかなかないと思います(笑)。
未熟なところも含めて人間なんだっていうことを描きたい
――でも、この夫婦にとって、娘のアキ(新津ちせ)の存在は大きいですね。
そう思います。この映画を観た方から「子供の前であんなに喧嘩をするもんじゃない!」って怒られたこともあって、それは確かにおっしゃる通りなんですけど、でも、実際、しちゃうじゃないですか?
もちろん、だから、そのままではいいとは言いませんけど、いつまで経っても未熟なのが人間でしょ!っていう想いが僕にはあって。
今回の映画に限らず、そういう未熟なところも含めて人間なんだっていうことを描きたいし、理想の姿より、人間のありのままの姿を見せた方がいいと思っているんです。
――そういう意味では、チカと夏帆さんが演じられた彼女の大学時代の同級生・由美との女性同士の会話も生っぽかったです。
男同士はいつもあんな話ばっかりしてますけど、女性同士の場合はその会話にどれだけのリアリティがあるのか、あまり自信がなかったんです。
でも、ママ友の飲み会に参加したときに、奥さん同士もわりとそういう話をするんだってことが分かって……。
――ママ友の飲み会に参加されたんですか?(笑)
ええ、参加したことがあるんです(笑)。ウチの上の子が保育園に行っていたころは暇だったので、送り迎えからすべて僕がやっていて、周りのお母さんには妻よりも僕の方が印象に残っていたと思うんです。
だから、その流れで飲み会にも参加したんですけど、そのときに、旦那のこととかも赤裸々に話す人がいたので、面白いな~と思いながら聞いていて。
今回の映画の「喘ぎ声の出し方、忘れちゃったよ~」というチカのセリフもそこで聞いた生の声を採用したものなんです。喘ぎ声の出し方があるんだ?ってビックリしましたからね(笑)。
――豪太とチカを濱田さんと水川さんのおふたりが演じられたことで、監督が想像していた以上によくなったシーンもありますか?
後半の路上で家族3人が泣き笑いみたいになっちゃうところは、台本に文字では書いたけれど、奥さんとリハーサルもできないし、どんな風に撮れるのかは現場に行くまで分からなくて。
ただ、濱田さんと水川さんには「リハーサルはなしで行きましょう」と言っていきなりカメラを回したんです。そしたら一発OKで。想像以上にいいシーンになったと思います。