第27回「気賀を我が手に」(7月9日放送)で、気賀に建設された堀川城の城主となった直虎(柴咲コウ)。誠実な人柄と大胆な発想で領主としての足場を着々と固めている。今後さらなる成長が期待されるが、その鍵を握る人物が、柳楽優弥演じる龍雲丸だ。
盗賊団の頭(かしら)だった龍雲丸は、偶然の出会いをきっかけに、直虎と信頼関係を築き上げた。一時は打診された井伊家への仕官に心が傾きながらも、「武家勤めはできない」と断った経緯がある。その後は気賀に拠点を移し、仲間と“龍雲党”を旗揚げし、町衆の依頼を引き受ける何でも屋的な稼業を営んでいる。
その龍雲丸が、なぜ直虎の成長の鍵を握るのか。
これまで直虎は、女性当主に強い抵抗感を示す家臣の中野直之(矢本悠馬)や、当主を目付の小野政次(高橋一生)にすげ替えようとする主家・今川家の思惑に対して、知恵を絞り、誠実に向き合うことで乗り越え、成長してきた。
とは言え、それは、あくまでも無条件に井伊家の人間を当主と認める武家社会の中での話。では、武家の常識が通用しない相手が現れた場合、果たして直虎はどう向き合うのか。
龍雲丸との関係の中でそれを示したのが、第26回「誰がために城はある」(7月2日放送)である。
商人の町・気賀の直接支配をもくろむ今川が、それまで自治を認めてきた町衆たちに新たな城の建設を要求。これに対して気賀の町衆たちは、築城賛成派と反対派に分裂してしまう。仲裁に乗り出した直虎は、「築城と引き換えに、町の運営に支障がないよう交渉する」との和解案を提示。これで町衆たちの話はまとまるが、彼らに協力してきた龍雲丸は断固反対を主張する。
この時の龍雲丸の主張は、「城があれば町が戦場になる」というもの。「城の存在自体は問題ない」とする直虎とは真っ向から対立する意見だ。だが仮に、龍雲丸が井伊家に仕える立場だったら、殿である直虎の決定に異を唱えることはできなかったはずだ。
この後、直虎は龍雲丸と正面から向き合い、続く第27回では築城そのものを龍雲党が請け負う一方、その城主に直虎が収まるという形で和解する。
これまでの直虎の成長を振り返ると、幾つかの段階に分けられる。幼いおとわが出家して“次郎法師”となり、“直虎”を名乗って当主の座に就くまでが第一段階。当主となった直虎が武家社会の中で認められ、名実ともにリーダーとなるまでが第二段階。そして、武家の常識が通用しない龍雲丸と相対することで、さらなる成長を示そうとする現在は、第三段階と言えるのではないだろうか。
図らずも先日、安倍晋三首相が、演説の中で、自らの政権に批判的な聴衆を“あんな人たち”と呼んで物議を醸したが、龍雲丸こそまさに直虎にとっての“あんな人たち”なのではないだろうか。必ずしも自らを支持しない人々をも取り込み、国を豊かにすることができるのか。それが今の直虎に与えられた命題なのかもしれない。
また、龍雲丸を演じる柳楽のアウトロー的な雰囲気が、劇中で大きな効果を挙げていることも忘れずにいたい。高橋演じる小野政次と並んだ時の対照的な存在感は、見事というほかない。
第28回からはついに武田信玄(松平健)も登場。いよいよ井伊谷にも戦乱の足音が忍び寄りそうな気配が漂う。直虎の行く手には、さらなる困難が待ち受けているに違いない。その時、対等に意見を交わせる龍雲丸は、直虎にとってますます重要な存在となるはずだ。(井上健一)