■作画の前段階「原作」「ネーム」

さて、漫画づくりは作画だけじゃないということで、その前段階である「原作」「ネーム」などもファンとしては見ておきたいところ。ちなみにネームとはコマ割りや構図を記した“漫画の設計図”のようなものだ。首都圏のファミレスを深夜訪れると、ごくまれにネーム作業をしている二人組(おそらく漫画家と編集者or原作者)を見かけたりすることがある。

いつでも読める完成原稿とは違って、こうした素材的なものは画集・ファンブック・単行本などの特典として収録される場合が多い。いくら好きな作家でも本人や編集部がOKと判断しなければ公開すらされないわけで、ファンからすれば運任せの要素が強い。

『バクマン。』はさすが漫画家の成長と苦労を描いたストーリーだけに、単行本でのフォローも充実している。原作者のガモウ……もとい、大場つぐみ氏による原作ネームに加え、それを再構成した作画担当者・小畑健氏のネームが同じページに掲載されていて対比しやすい。原作ネームから完成原稿へのアレンジ具合を見比べることで「ああ、この作家さんは○○(キャラクター名)が好きなんだな」など、思わぬ個性がわかってニヤリとできる場合もある。

『バクマン。』ほど親切で詳細なケースは稀だが、単行本にファンサービス要素を入れてくる作家は意外と多い。ネームだけ見せる人、連載前(企画段階)のラフスケッチを載せる人、表紙イラストのラフデザインを載せる人、表紙カバーを外したところにネームや下書きを載せる人など、その公開方法はさまざま。『デビューマン』作者・吉本蜂矢氏のように担当編集者からのFAXを載せたり、『コミックマスターJ』原作者・田畑由秋氏のようにボツ台本を載せたり、存分に個性を発揮するクリエイターもいる。

個人的にこうした“素材公開”の最高峰は、2000年前後に人気を博したラブコメ漫画『ラブひな』の公式研究本『ラブひな∞(むげんだい)』だと思う。美麗なカラーイラストや本編未公開の裏設定だけでなく、連載スタート前のプロトタイプ版やアイデア集まで詳細に載せられているのがミソ。初期のタイトル案は『ひなた日和。』で、出てくる設定、ストーリー、キャラクターなどまったく別物と言ってもいい。その状態から完成版『ラブひな』へ近づいていく過程が秘蔵の資料とともに詳しく語られ、なんと編集会議で連載が決まったときにはネーム第17稿というリテイク数に達していた。この連載スタートまでの過程だけでドキュメント映画が1本作れるんじゃないか……と思わされてしまう、まさに激闘の記録だ。こうして丁寧に作りこまれた『ラブひな』は現在、作者・赤松健氏の運営する「Jコミ」で全14巻が無料公開されている。お色気コメディと見せかけて6巻以降は神がかった面白さが続くので、未読の方には強くオススメしたい。