『功名が辻』から2年後の2008年後半から2009年にかけて、木村文乃はNHKの朝ドラ『だんだん』にも出演している。『だんだん』は、三倉茉奈と三倉佳奈が双子のヒロインを演じた作品で、平均視聴率は16.2%。そんなに高い数字ではないが、榮倉奈々が主演したひとつ前の『瞳』(15.2%)や、多部未華子が主演したひとつ後の『つばさ』(13.8%)よりも視聴率は良かった。そして何より、木村文乃の出演シーンが『功名が辻』よりずっと多かった。きっと彼女のことを覚えている人も多いに違いない。

ヒロインのひとり、田島めぐみ(三倉茉奈)は、島根県の松江で育った高校生。もうひとりのヒロイン、一条のぞみ(三倉佳奈)は、京都の祇園で育った舞妓。2人は別々の場所で別々に育ったが、18歳の誕生日に、縁結びの神さまである出雲大社の境内で偶然出会い、のちに自分たちが双子の姉妹であることを知る。というのが、物語の導入部分。そして、祇園で育ったのぞみ(舞妓としての名前は夢花)のライバルとして登場したのが、涼乃という名前の舞妓で、これを木村文乃が演じていた。涼乃は、夢花が出雲大社へ行くキッカケを作った人物でもあるので(松江にはめぐみがいるので、当初、のぞみの家族は行かせないようにしていた)、ヒロインの人生を動かした意外と重要な役だったのだ。

ライバル役ということで、お約束のように夢花にきつく接するシーンもあった。たとえば初回、仕事に向かう夢花と道ですれ違う場面では、夢花に向かって「近頃、ちゃんと芸を見てくれはるお客さんが減りましたさかい、よろしおすなあ、愛嬌だけでもそこそこ売れて」とか言ったりしていた。イヤミ全開である。しかし、脇役時代にヒロインをいじめる役を経験して、のちにブレイクした女優は多い。ある意味、木村文乃はこの時からサクセスロードに乗っていたのかもしれない。

涼乃の夢花に対する“口撃”に気づいた夢花の先輩芸姑・花鶴(京野ことみ)が、涼乃にちょっとした仕返しをするシーンでは、こんな会話もあった。道でバッタリ会って、花鶴から先に挨拶をしたあとの会話だ。

花鶴「いやあ、この頃の舞妓はんは偉いもんやなあ。芸姑のほうが先にご挨拶せんとあかんみたいやわ」

涼乃「すんません、きいつきまへんどした。姉さん、華がないいうのか、地味やさかい」

花鶴「なんていわはったん? いま……」

涼乃「売られたケンカをこうだだけどす」

怖い、怖すぎる。まあ、最終的には涼乃も夢花を認めていて、お互いに切磋琢磨して、芸姑、名取へと成長していくのだが(夢花は途中、歌手になったりするので、かなり遠回りをする)、序盤の涼乃はなかなか強烈だった。ただ、この『だんだん』の出演は、木村文乃に大きな可能性を示したと思う。ひとつは、和風美人の証明。木村文乃はもともと美人だが、どちらかと言えばのっぺりとした顔立ちをしている。それがかえって、祇園の舞妓のような化粧、髪型、服装をしてもしっくり来たのだ。現代劇だけでなく、時代劇や大正・昭和の日本人を演じても、違和感がないだろうことを証明した。もうひとつは、ツンデレの才能。きついセリフを言う役をやっても、どこか魅力的に見えるというのは大きかった。声につやがあるのも武器だと思う。毒を吐いても本気で見ているものに嫌悪感を抱かせないというのは、演者として大きな魅力だった。