なでしこの強さを支える密なコミュニケーション
“チームワーク/チーム第一”という言葉には、「個性を消して、周りに合わせる」というイメージがあるかもしれない。しかし、丸山選手は「チームワークとは、メンバー同士がそれぞれの個性を知り、それを認めて、最大限に活かすこと」だと考えている。そのために、日々のコミュニケーションは何よりも大切な要素になっていると言う。
「なでしこはピッチの外でも、本当に仲がいいんですよ。日頃から信頼関係ができているから、試合でも、パスが出てくることを信じて走ることができる。それと私、年齢的にはチームで上の方なんですけど、けっこういじられ役なんです。試合中は真剣だけれど、ピッチの外ではいつも明るく、みんなを笑わせる――それが、自分の役割だと思っていて。本当は、ツッコミなんて受けたくないんですけどね(笑)」
相手チームとの相性やコンディションの問題もあり、選手たちはいつでもピッチに立てるわけではない。丸山選手はオフの時間でもコミュニケーションを重視するとともに、「スタメンの選手が頑張れるのはサブメンバーがしっかりしているからだし、サブメンバーが頑張れるのは、監督やコーチ、スタッフに支えられているから」と考えている。
例えば、ベンチにいるときは声を出してチームを盛り立てるなど、スタッフも含めて一丸となって戦っていることが、なでしこの強みにつながっているようだ。
フォア・ザ・チームはなでしこジャパンの伝統でもあるが、丸山選手が代表に初選出された2002年当時は、中心メンバーには70年代生まれの選手が多く、現在のチームとは少し雰囲気が違ったという。
「どちらがいいという話ではなく、当時は今より上下関係がしっかりしていて、先輩が怖かったですね(笑)。もちろん、女子サッカーの取り巻く環境は今より厳しくて、それを乗り越えるために規律を持って戦わなければいけない、という背景もあったと思います。だから、若手はハートが強くないと、萎縮して思うようにプレーできなかったかもしれない。一方で、私たちの世代は規律にも増して“和=コミュニケーション”を大事にしているので、若い選手は楽にプレーできていると思います」
なでしこジャパンの名場面として、昨年の女子ワールドカップ決勝、宿敵アメリカとの一戦が挙げられる。国内外の各メディアが注目したのは、勝負を決めるPK戦に入る直前、緊張感がひしひしと伝わってくるアメリカ代表とは対照的に、なでしこたちが笑顔を見せていたこと。結果として、その笑顔に勝利の女神が微笑み返すかたちで、日本がワールドカップ初優勝を果たした。
重要な局面を明るく笑顔で乗り越える――プレッシャーに強く、和を大事にする世代が中心のチームならではの強さが垣間見えた瞬間だった。
【仲間力で世界を席巻する、なでしこジャパンの理念とは?】
JFA(日本サッカー協会が運営する『なでしこジャパン公式サイト』[ https://nadeshikojapan.jp/ ])によると、日本の女子サッカー界は「ひたむき/心が強い/明るい/礼儀正しい」を“なでしこらしさ”と定義して、これを満たす選手の育成を目指している。
プレッシャー世代が中心となっている現なでしこジャパンは、まさにそれを地で行くチームになっている。男子サッカー界と比較して、恵まれているとは言いがたい環境で努力を続ける「ひたむきさ」、本番で力を発揮する「心の強さ」、緊迫した試合でも笑顔が見える「明るさ」、フェアプレーで世界に称えられる「礼儀正しさ」。また、丸山桂里奈選手が語った「チームワークのよさ=団結力=仲間力」も、なでしこの大きな特徴だ。
事実、ロンドン五輪では、組織された守備で決勝に至るまでの6試合を4失点で抑え、選手同士の信頼関係に裏付けされたパスワークは、各国メディアから「優雅だ」と賞賛された。比べるもののない、見事なチームワークだったと言える。
JFAは「なでしこvision」として、「なでしこジャパンを世界のトップクラスにする」との目標を掲げているが、これを“達成済み”として、疑問挟む人はいないだろう。
プレッシャー世代の仲間力で世界を席巻するなでしこジャパンは、どこまで飛躍を続けるか。2015年のFIFA女子ワールドカップ・カナダ大会に向けて、なでしこたちの戦いは始まっている。