7分間に込められた深いテーマ
短い作品ながら、男女の考え方の違いなんかも上手く描かれていて、思わず唸りました。
奥さんの方は年老いた今も、夫を連れ出そうとしたりダンスに誘ったりしているのに対して、ご主人の方は、過去の思い出に囚われ続けている感じ。
自室に貼ってあるのが、若かりし頃の2人の写真ばかりで、今の写真がほとんどないんです。
あの頃は良かった、今の老いぼれの私ではもう人生を楽しめないと、思い込んでしまっている印象でした。
"今"を見つめることが出来ない夫
ダンスが始まり、不思議な雨の力で若返った時も、奥さんは若かろうが老いていようが、とにかく2人でいられるその瞬間を楽しんでいました。
対してご主人は、雨によって若返った姿を保つことだけに、必死な様子なんです。
若く元気な自分でないと価値がない、愛してもらえないと、思い込んでいる感じ。
いつのまにか独りよがりになってしまって、寂しそうな、何かを訴えかけるような妻の様子にも気づかず、ついに手を離されてしまいます。
ここできちんと向かい合うことによって、ご主人はやっと大事なことに気づけた。
過去の美しい思い出を追うばかりで、目の前に今いる、優しく微笑む妻をきちんと見てあげられてなかった。
年をとってもずっと変わらず、愛し続け、自分を見続けてくれていたのに。
ついに重なった2人の想い
きちんとお互いがお互いをちゃんと見つめて、ついに2人の心がピッタリ重なって、踊られるダンスのなんと美しい事か。
ここで、雨上がりの水溜りに、若かりし頃の2人が映る演出も良い。
今だけに向き合うんじゃなく、一緒に積み重ねて来た過去があるからこそ、今の2人があって。
どちらも大切な道のりで、大事な思い出だし、今だけを、過去だけを見るんじゃなくて、両方大事にして行けたら良いよね、という温かいメッセージを、しっかり受け取る事が出来ました。
一見、2人の登場人物が台詞もなく、ただ踊っているだけのようで、めちゃくちゃ深い作品だと思います。
エンドロールまで見逃さないで!
エンドロールでは、老いた今の2人が、若い恋人同士のようにデートを重ねるシーンが入っています。
ここがまた、泣ける!
6~7分の短い時間に、全ての良さがギュッと込められた短編、やっぱり好きなんですよね。
そして『ラーヤと龍の王国』もそうですが、2作とも"水"がキーポイントなのが、すごく良かった。
濁った川、透き通る水しぶき、ネオンサインが映り込む水たまり、打ち付ける豪雨など、さまざま質感で描かれる、水の描写が素晴らしかったです。
『あの頃をもう一度』は、ディズニープラスでも6月から配信予定ですが、ぜひ2作とも大画面で見ることをおススメします!
『あの頃をもう一度』
全国の劇場にて『ラーヤと龍の王国』と同時上映中