(C)武藤章

「100mを全力で2本走るようなもの」
1公演で2曲の協奏曲を弾くイメージを、そんなふうに喩えてくれた。
2002年チャイコフスキー国際コンクールで、女性として、また日本人として初優勝という快挙をとげた上原彩子。そのデビューから20年の記念リサイタルを、チャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番とラフマニノフのピアノ協奏曲第2番という超ど級プログラムで飾る[2022年2月27日(日)サントリーホール]。
協奏曲を2曲続けて弾くのは、そのチャイコフスキー・コンクール以来20年ぶり。
「コンクールでは1曲目がラフマニノフの《パガニーニ狂詩曲》でしたが、2~3分ですぐチャイコフスキーを弾かなければならなくて。時間がなく、栄養補給のために舞台袖に用意しておいたバナナを途中までしか食べられなかったのをよく覚えています(笑)」
ロシアの2大ピアノ協奏曲。どちらも、弾き終わったあとに壮大な物語を読んだような感覚になる作品だという。
「ラフマニノフは、とても暗いところから始まって最後に祝祭的に昇り詰めていく。チャイコフスキーは明るい色の中に淡い色や悲しい色が散りばめられている。どちらも、感情や呼吸が深いところで動いているような感じがあるのは、すごく似ているところです。一方で、チャイコフスキーの方がオペラ的・演劇的で、人に見せる要素を感じますね。ラフマニノフはもっと純粋にピアノで音楽を紡いでいく。だからチャイコフスキーには表に出ていくような音色が必要ですし、ラフマニノフはもう一段暗く、内側に詰まった音が大事。和音も内声がより大事です」
ロシア人ピアニスト、ヴェラ・ゴルノスタエヴァのもとで、小学生の頃からロシア音楽に取り組んできた。
「あまり型にはまらなくていいところが大好きでした。特に幼い頃は、バッハやベートーベンと比べて断然自由に弾けるのが楽しくて。もちろん作曲家それぞれのスタイルの中で弾かなければならないけれど、でもその中ですごくいろんな自由が私には感じられるので」
共演は原田慶太楼指揮の日本フィル。
「原田さんはすごく前向きでエネルギッシュ。救われる気がします。日本フィルは、たぶん一番多く共演している日本のオーケストラ。私は『ソリスト対オケ』でなく、メンバー一人一人との繋がりが見えるような協奏曲の演奏が好きだし、今回は直前まで九州ツアーでご一緒しているので、いっそうそんな演奏にしたいなと思います」

(取材・文:宮本明)