――サイバラさんの子育ての方針などはありましたか?
「しつけとか教育方針とか言いますけど、実際に現場に出たらそんな小理屈通じませんよね。その時その時に臨機応変で対応していくんであって、一貫した教育方針とかよく言うけど、それ現場から出た言葉?って言いたいです。100人子どもがいたら、100人違うんですから。
ただ、私は、すごく怒られて育った子どもだったんで、自分の子どもに対しては怒りませんでした。
私、勉強ができなかったんで、たぶん子どもも勉強できないだろうな、と思っていたんです。なので、小学校までくらいはしなくてもいいや、と思って、怒らないでニコニコしてたら、子どももニコニコ笑ってました」
――怒らないことが、なかなかできないお母さんも多いと思うのですが…。
「怒らないために何を排除したらいいか、ということを考えましたね。“勉強しなさい”と“早くしなさい”を言うのをやめると、4分の3以上怒らないで済みます。」
――4分の3とはすごいですね。それだけ怒らなかったら、エネルギーをかなりセーブできる気がします。
――ところで、サイバラさんの場合は、売れっ子漫画家として働きつつ、旦那さんはアルコール依存症で時には暴れたりと、すごく特殊な家庭環境であったとは思うのですが、どのようにして乗り切られたのでしょうか。
「ご飯は、子どもが中学になるまでは作りませんでした。ぜんぶお惣菜です。
あと外食もよくしましたね。中華がいいですよ。どんなに子どもが騒いでも中国人の店員さん、絶対怒らないですし。アジア圏とかだと、自炊しないお母さんって多いんですけど、それを真似して、うちは働いてるんだからって、開き直ったんです。
一生懸命食事作っても、残されてストレスがたまって、怒るよりはいいと思ったんです」
――ストレスをなるべくためないようにしたんですね。
「子どもはきれいな服を着せられて、おやつとかつくってもらっても、別にうれしくないんです。
それより、ギャンギャン怒られるのはいやなんですよ。だいたい小さな子どものすることに、なんでそんなことで怒るのかなあってくらい、今のお母さんたちって追い詰められてますよね」
怒ってばかりなのはヒマだから?
――サイバラさんみたいなやり方だと、子どもにとってのいいお母さんになれますよね。でも、世の多くのお母さんたちがなろうとしているのは、世間からみてのいいお母さんという気がします。他人からよく見られたいというか。
「価値観って本当に簡単に変わるんですよ。
世間って、あんたらの大嫌いな姑の決めた世間だからねって教えてあげればいいんです。いい嫁っていい女中だからね。あんたは誰の女中になろうとしてるのって」
――あと考えられるのは、人と違うことをやるのはこわいっていう人も多いと思います。
「それは日本の国民性ですね。良くも悪くも。
それよりも、子どものいいところだけ見ましょうよ。世間のお母さん、悪いところだけ見て文句を言いますからね。せっかく子どもががんばってなんか持ってきても、ここがダメでしょって。
人の悪いところ言うより、自分のことを直そうっていうことです。お母さんって、朝から怒ってるでしょ。月曜の朝からなんで怒鳴ってるんだろうって。そこからやめません?」
――なにかを見失っていますよね。
「あたしの場合、アルコール依存症の夫がいたんで、優先順位の一番は子どもでした。次に自分と自分の仕事。夫も親も圏外です。
せいぜい2、3個の事しか優先できないのに、PTAでどう思われるかってことが上位にランキングされているんだから、皆さん、優先順位のつけ方を間違ってますよね。
濁流の中、子どもが流されてきて、絶対子どもの手を取らないといけないのに、なぜかPTAのババアの手を取るっていう。人生においてそんな間違いは絶対にやっちゃいけません。PTAのつきあいなんて、子どもが卒業したらもうないですから」
――シンプルで力強いメッセージです。それまで生きてきたサイバラさんの人生が、お母さんになってもどーんとできたのですね。
「そうせざるを得なかったんです。もしほんとに目の前を濁流が流れていたら、ランキング最底辺のババアの言うことなんて、聞いているヒマないから。
子どもが元気に生きていてくれたら、それでいいと思うんですよ。きちんと礼儀正しくとかって、最後の方でいい。あとは好かれる子になればいい」