「オーティコンみみともチャリティーコンサート2021」は初のリアルとオンラインのハイブリット開催で行われた

難聴者と健聴者がともに最高の音楽を楽しむ――そんなコンセプトのもと、補聴器メーカーのオーティコン補聴器が企画した「オーティコンみみともチャリティーコンサート2021(以下、みみともコンサート)」が11月5日に東京・銀座の王子ホールで開催された。同コンサートは2014年にスタートし、今年で8回目。昨年はコロナ禍で初めてのオンライン開催となったが、今年はリアルとオンラインの双方で楽しめるハイブリッド形態を採用。これまでより多くの人が楽しめるコンサートにパワーアップした。

初のクラシック生演奏に期待、我妻ゆりかさんが参加

今回のみみともコンサートには“補聴器をつけた天使”としてテレビや雑誌で活躍中の我妻ゆりかさんもオーティコン補聴器からの招待で参加した。以前からBCNの取材で補聴器との付き合い方や音楽の楽しみ方について語ってくれていた我妻さんだが、実は生でクラシックコンサートを楽しむのは初めて。本番前のインタビューでは、期待感が抑えきれないようだった。

我妻さんが期待を高めている理由はもう一つある。それは現在使用している補聴器「オーティコン モア」の新機能を試せることだ。オーティコン モアはスマートフォンとBluetooth接続して、通話や音楽を楽しめる機能を搭載した次世代補聴器。9月のアップデートで専用アプリに「Oticon MyMusic」というモードを実装し、音楽をより堪能できるようになった。

本来、補聴器は人の声にフォーカスしているため、音楽のもつ広い周波数帯での強弱や繊細な音の変化などを処理するのは苦手としていたが、Oticon MyMusicは高度な音響環境で採用されている手法などを用いて、音楽に特化したプログラムを組み上げた。これは従来の補聴器業界にはあまりなかったアプローチだ。

すでにオーティコン モアのOticon MyMusicを利用している我妻さんは「音楽好きにはたまらない日々を送っています」と満足気な様子。これまでのモードでも十分に音楽を楽しめていたそうだが、Oticon MyMusicは「臨場感があって、近くで演奏を聞いているような気持ちにさせてくれる」とのこと。「スマホから再生した音楽でもこれだけの音が聴こえるのに、生演奏だとどうなるのか、わくわくしています」。

2年ぶりの来日に安堵、ダニエル・ゲーデ氏の情熱

本番前にはもう一人、今回のコンサートのキーパーソンに話を聞くことができた。「メランデ・ピアノ三重奏団」を率いるダニエル・ゲーデ氏だ。ウィーン・フィル管弦楽団の前コンサートマスターでもあるゲーテ氏は、長年にわたって、みみともコンサートで演奏しており、その取り組みには並々ならぬ思い入れを持っている。

昨年はオンライン開催で来日は叶わなかったが、「開催できないかもしれないという状況下ながら、オンラインという形で音楽を届けることができてうれしかったです」とゲーテ氏。ただ現地で演奏できる喜びもひとしおのようで、「今年は無事に来日できてよかった」と安堵の表情を見せた。

リアルとオンラインの観客に向けて演奏する新たな試みに対しては、「直接お会いするみなさんにはもちろん、オンラインで鑑賞されるみなさんにも真心を精一杯届けたい」と意気込みを語った。

難聴者でも楽しめる工夫とは? 目指したのは遠慮のいらないコンサート

19時に開演したコンサートでは、はじめに主催するオーティコン補聴器の木下聡プレジデントが舞台に登壇し、コンサートの趣旨を説明。「補聴器は構造上の問題でしばしばハウリングによる音漏れが起こってしまう。それによってコンサートに足を運ぶのをためらうユーザーの方は多い。今日のみみともコンサートでは音漏れを気にすることなく、楽しんでほしい」とメッセージを送った。

次に会場に張り巡らされた「ヒアリングループ」。これはテレコイル対応の補聴器や人工内耳に磁気を通して直接音を届けるという仕組みだ。ヒアリングループを使えば、ユーザーはよりクリアに音を聴くことができる。このほか、筆談可能なスタッフや筆談用の電子メモパッドなども用意されており、難聴者が遠慮することなく、コンサートを満喫できるようになっている。

クラシックの名曲から日本の歌まで、ここでしか聴けない特別プログラム

みみともコンサートはプログラムが多岐に渡るジャンルで構成されており、年齢を問わず、誰でも楽しめるものになっている。今年はクラシックの定番であるメンデルスゾーンの「ピアノ三重奏曲第1番ニ短調作品49」で開幕。休憩を挟んで、ガブリエル・フォーレの「夢のあとに」、エルネスト・ブロッホの「Andante quiet(3つの夜想曲より)」と続き、趣向を変えてペーター・ルートヴィクのタンゴメドレーが演奏された。

毎回恒例となっている日本の歌メドレーは「海の声」「ゴンドラの唄」「ハナミズキ」「赤とんぼ」の4曲。会場は馴染みのある音楽の新鮮なアレンジにじっくりと耳を傾けた。フィナーレは世界中で愛されているシュトラウス2世による「美しく青きドナウに」。そして、アンコールには軽快なテンポの「ラディッキー行進曲」が奏でられ、約90分におよぶ夢のようなコンサートは幕を閉じた。

コンサートを終えて、関係者それぞれの思い

コンサート終了後には関係者を囲んでインタビューの機会が設けられた。演奏直後のゲーテ氏は「健聴者と難聴者がともに楽しむというコンセプトのコンサートは他の国も含めてあまり聞いたことがなく、そこで演奏できることは大きな喜びだ。オーティコンの取り組みに敬意を抱いている」とコメントした。

今回のコンサートに大きな期待を寄せていた我妻ゆりかさんは、演奏終了後の花束贈呈の大役も果たした。取材の場に姿を見せた我妻さんは初めての生演奏への興奮冷めやらぬ様子だった。本番前のインタビューでも紹介したオーティコン モアの新機能については「音と一体になっているようで、生演奏を堪能できました」と感想を語った。

我妻さんと同じくオーティコンから招待を受けた聴覚障害者ダンサーのGenGen氏は「字幕表示やヒアリングループがあることで、難聴者の自分でもコンサートに入っていきやすかったです」と会場内の工夫を評価。GenGen氏は東京パラリンピックの閉会式でもダンスを披露して話題になったが、「音楽を聴くときにも補聴器の存在はとても大きい。自分の右腕のような存在」と改めて補聴器への感謝を示した。

リアルとオンラインの融合という新しい開催形態を決断した木下プレジデントも無事にコンサートが幕を下ろし、ホッとした表情で取材に応じた。新たな試みについては「東京で1回しか開催されない貴重なコンサートをより多くの人に楽しんでもらいたいという思いがあった」と経緯を説明した。

オーティコン モアのOticon MyMusicについては「補聴器といえば言葉を聞き取る道具であると認識されてきたが、いまや音楽を楽しむためにも役立つものになってきた。音楽はいろいろなシーンと結びつくもので、非常に大事なものだと考えている」とコメントした。

大盛況のうちに終わったみみともコンサートだが、特設サイト(https://www.oticon.co.jp/event/concert)でアーカイブ配信を行っており、今からでも当日の演奏を視聴することができる。12月30日までの期間限定なので、気になる人は早めにアクセスすることをおすすめしたい。(BCN・大蔵大輔)