いじめられている時は、日常の中で子どもに変化が起こっている

ーー子どもがいじめを受けていると親が早期に気づくには、どんなことに注意を払えばいいでしょうか。

親には「いじめられない情報」が蓄積されていると思います。例えば進学する時には「いじめのない学校はどこだ?」「スクールカウンセラーが居る学校なのか?」「学校がいじめ防止策をホームページにちゃんと載せている」とか調べたりするケースが多いです。

今一番その感度が高いのは進学を控えた親だと思います。だからこそ、ある程度は知っていると思います。

その上でさらにいじめられない方法を考えるには、そもそも全国津々浦々いじめの存在しない学校は無いということです。

いじめによる酷い暴力は無い学校はあるかもしれないですが、「〇〇さん、嫌い」などのちょっとしたいざこざは100%あると言ってもいいでしょう。

というのも今の日本の「いじめ防止法」に照らすと、法律上では「いじめかいじめではないかの判断に関わらず、“体と心が辛い、苦しい、痛い”と感じた時には既にいじめと捉えて下さい」と定められています。

どんなトラブルもいじめに繋がる芽であるという認識です。

そうなると子どもが集まる場所にいじめが無い場所はありません。小さないじめがあるのは自然なこと、それをよりこじらせない、深めない、深く傷つけさせない、そのことを考えること。

小さな時からちょっと辛い気持ちでも打ち明けることが出来る、小さなSOSでも出せるような環境、コミュニケーションがとれる関係性を作ることが大事になりますね。

そういったコミュニケーションがとれるだけで早く見つけたり、違和感に気づいたりする事が出来る、つまり早く対処することが出来るんです。その感度を親には持って頂きたいと思います。

ーー 子どもと常にコミュニケーションを取れる関係性を作ることが重要なんですね。

でも実はそれだけでは足りなくて、いじめの事を親に打ち明けることが出来る子どもは少ないんです。

統計上は平均すると3割~4割の子が「嫌なことがあった」と親に打ち明けています。

小学生なら6割の子が親に話すことが出来ていますが、中学生に入るとぐっと減って誰にも言えなくなるという子が半数ぐらいに増える、場合によってはもっと高くなるんです。

ーーそれは子どもが親に迷惑をかけたくない、こじらせたくないという思いもあるからなんですか?

そうですね。そもそもいじめかどうかも本人が分からなかったり、あとはいじめのようなストレスを受ける空間が当たり前になっている場合もあり(「学習性無力感」とも言います)、その為にいじめと認識しないまま本人は疲れていく状況もあります。そうなると親もキャッチするのが難しい。

でもそういう時ほど様々なサインは出ているので、そのサインを見つけて欲しいです。

大きなものでは「夜、寝るのが遅くなる」「お腹が痛い」「頭が痛い(頭痛)」「吐き気」「だるい」などの身体症状です。それは日常でも気づけるはずなので、タイミング的に連発するような状況の場合は「何か疲れているのかな?」と認識した方がいいし、疲れていることを親が把握出来ているとその先の状況を発信しやすくなるので、親は体のサインを捉えられるようになって欲しいです。

子ども自身に言ってもらえるのがいいですが、言えない子もいるので親は体のサインに気付いてあげる、それが大事です。

いじめられているかを問い詰めるより、リラックスさせるセーフティゾーン作り

ーー子どもがいじめられている、と気付いたらどうしたらいいですか。

親は慌てますよね。その時はまず子どもにどうするか?よりも親自身(自分自身)がどういう心境になるのか?是非事前に自分自身をチェックして欲しいです。

親自身がめちゃくちゃ動揺するのか? 加害者への怒りが先に出てしまうのか? 中には親の中にもしんどい状態で子育てをされている方達がいます。

その方達は先生たちとのやり取りなどに不安を感じてしまう。親自身がどういう心境になるのか?

まず自分の気持ちを一息ついて確認して欲しいんです。それによって対応策が変わって来ると僕は思います。

その上で事実関係を確認出来る範囲で確認すること。ただ子供に対して「何があったの?どうしたの?」と問い詰めるような質問攻めにすることは完全にNGですが「ちょっとあなたのことが気になっている」とは言っていいと思います。

私が気になっているので何かあれば言って欲しいというメッセージはむしろ出していい。SOSって問い詰められるほど子どもって言いづらいんです。

親に迷惑を掛けたくない、自分からいじめられているということはある種の敗北宣言のような感覚にさせてしまう、子どもにもプライドがあるので言えないんです。

だからこそ「いじめがあったのよね?」という質問の仕方はあまり意味が無いんです。まずは体調の変化から聞いてみる。

ただ親が子供に対して「これは明らかにおかしい」と感じた時って、かなり限界な状態です。

子どもはエネルギーオーバーで、エネルギーを使い果たしている可能性がありますので問い詰めない。安心できる空間や時間を確保する、避難できる環境を用意して欲しいです。

いじめられているかの確認をしようとしてはいけない

ーーいじめられているかの確認をしようとしてはいけないんですね。

はい、原因探しよりもまずは避難。安全な場所に移ることを重視して欲しいです。

家で一緒に過ごす時間を増やしたり、美味しいご飯を食べたりしながら子どもが楽しい時間を過ごせるようにする、親が求めるのではなく、受ける姿勢、子どもが話してくれるまで待つ、その方がSOSを出しやすいです。

SOSを出して良い空間、「心理的安全性」が保てる空間を作っていくことが大事です。そうすれば徐々に理由を打ち明けてくれることにも繋がり、落ち着いた対応が出来ます。次のステップに進むことが出来るんです。

親が怒ったり慌ててしまったら家も臨戦態勢の空間になってしまう、家が不安定な心理的空間になってしまいます。学校でも家でもボロボロになってしまったら、本人が休めないまま身体症状が悪化して、悪循環が起こってしまいます。

そうならない為にも子どもが「家は安全な空間だ」と思ってもらえるような空間作りを考えて欲しいです。

さらに号泣するなど不安症状が進んでしまった場合は、緊急事態なので安全性を確保するだけでなく「学校に行かない」ということをやった方がいいです。物理的にその場所から離すことも大事です。

「学校に行かなくていい、休もう」と親が言う事も大事で、学校には「かなりしんどそうなので休ませます」と伝え、その時に「ちょっとしんどそうなのですが、教室内で何か変化はありませんでしたか?」と学校側に確認するのも大事になってくると思います。