オンド・マルトノ奏者の大矢素子が、注目の現代音楽シリーズ「Just Composed in Yokohama」に登場する[2月26日(土)神奈川県民ホール小ホール]。
シリーズの軸は毎回の委嘱作品。現在ベルギー在住の1989年生まれの作曲家・山本哲也の《目に見えない天使達の囁き》が初演される。オンド、ヴィオラとピアノの三重奏で、室内楽の中でのオンドの可能性を探求した作品だ。大矢は言う。
「かなり個性的な作品です。聴き終わって呆然としてしまうような。聴こえている音がオンドなのかピアノなのかヴィオラなのか、知覚が混ざって揺さぶられるんですね。同時に、スピーカーの音場の遠近感にも揺さぶられる。その音体験が室内楽のオンドの面白さの一つではないでしょうか。
キーンという透明で硬質な高音が持続するのも印象的です。オンドは生の楽器と違って、ボタンの押し具合によって、かなり音を保つことができる、しかも人間的な表現ができるので、なかなか聴く機会のない独特の音響体験だと思います」
シリーズのもう一つの特色が、過去の委嘱作の再演をすること。今回は薮田翔一(39)のバンドネオン、サクソフォン、ピアノのための美しい《祈りの情景》(2018)が、上述の山本作品と同じ三重奏に編み直された。
「もともとすごくきれいな作品なのですが、オンドの持続する音やポルタメントを生かして、天国的な味わいが増しています」
これら2曲の初演曲の他に、オリヴィエ・メシアン、池辺晋一郎、坂本龍一、トリスタン・ミュライユの作品を演奏する。共演はヴィオラ安達真理、ピアノ松本望。
「パリ留学時代から交流のある松本さんと、初めてご一緒する安達さん。二人とも卓越した技能と勘の良さがあります。あねご肌で、どんと来い!でやってくださるので、すごく頼りにしています」
オンド・マルトノは1928年に発明された電子楽器。発音の原理こそ電子的な発振によるものだけれど、表現の感覚は生の弦楽器に近い。昨年のNHK大河ドラマ『青天を衝け』で響いたサウンドも記憶に新しい(あれを演奏していたのも大矢)。他にも映画やCMなど、正体を知れば「なるほど。あれもオンドなのか!」と気づく、案外身近な楽器なのだ。公演には「魂の詩」のタイトルがある。
「人間の表現のために新しいテクノロジーがどう使えるかという試みから生まれた楽器の一つ。その歴史は今も作られている途中です。電子を通した人の心の表現を感じていただけたらなと思います」
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(取材・文:宮本明)