90年代後半にサラリーマンを辞めて独立して以来、在宅ワークを25年続けている。コロナでなにかと息苦しい時代になり、ひとつの机で仕事をし、メシを食い、酒を飲み、ネットで映画鑑賞する暮らしにうんざりしていた。
閉塞感たっぷりのワンストップ型生活からしばし逃れようと、3泊4日で福島県の温泉場に行くことにした。
タイミングよく福島県がテレワーク体験支援(短期コースは5泊6日まで。上限1泊1万円)を行っていたので申し込むと、あっさり交付が決まった。往復交通費と宿泊費等の75%は福島県が負担してくれる。
私の場合、自宅が勤務先なので、テレワークよりワーケーションと言うほうがしっくりくる。ワーケーションとはWORKとVACATIONを同時に行うという横着な概念である。
見知らぬ町の散策、温泉、酒……。誘惑はてんこ盛りだ。はたして仕事と旅は両立するのだろうか?
初日 大宮駅から新幹線の自由席で郡山へ
大宮駅から新幹線に乗る時点ですでに気分は浮き立っている。
以前は少なくとも2カ月に1度は韓国や台湾に取材旅行に行っていた。大阪や名古屋出張も多かった。
しかし、コロナ以降は、日帰り旅が2回(山梨、群馬)、只見と湯本温泉の一泊旅行が1回ずつ。それだけだ。只見に湯本。妙に福島県づいている。
あれは今回の3泊4日ワーケーションin福島への助走だったのかもしれない。
須賀川で大人の社会科見学
4日間の旅程のうち前半2日間は福島出身の飲み友達が同行する。酒好きの彼によってワークとバケーションのバランスが崩れそうな気がしないでもないが、まあいいだろう。
郡山駅で待ち合わせして東北本線に乗り換え、須賀川駅に向かう。
駅前にウルトラマン像が立っていることからもわかるように、須賀川は特撮の神様、円谷英二の故郷だ。駅から「須賀川市民交流センターtette」の円谷英二ミュージアムに向かう途中、ウルトラシリーズのヒーローや怪獣像を何体も見ることができる。
初代ウルトラマン、ウルトラセブン、帰ってきたウルトラマン世代なので、ゼットン像で一気にテンションが上がる。続いて、宇宙大怪獣ベムスター像→帰ってきたウルトラマン像と遭遇。
となれば、次は彼しかいない。ベムスターに敗れたウルトラマンにウルトラブレスレットを授けた我らがウルトラセブンである。
ファンの心を揺さぶる像の配置がすばらしい。ウルトラセブンの26話「超兵器R1号」、42話「ノンマルトの使者」、43話「第四惑星の悪夢」、45話「円盤が来た」などの社会派の物語は、私に大人の階段を登らせてくれた。感謝の意味で像に向かって深々と頭を下げる。
円谷英二ミュージアムでは、彼の生涯を伝えるパネルに見入ってしまった。戦時中の国策映画制作を理由にGHQから公職追放処分を受けていたことなど知らなかった不明を恥じつつ、今後は文献をあたろうと心に誓う。
磐梯熱海温泉へ
須賀川から郡山に戻る。日曜の午後4時過ぎ。郡山で一杯やりたかったが、大きめのノートPCなどが入ったリュックが重い。先に磐梯熱海の旅館「水林亭」に荷物を降ろしに行くことにした。
郡山駅から磐梯熱海駅(以下、熱海駅)までは二両編成の磐越西線で20分ほどだ。
熱海駅前には須賀川では見られなかった積雪があった。ロータリーの足湯が気になったが、旅館まで20分ほど歩くので次の機会にする。
横殴りの風の中、アイスバーンになっていないところを選んでゆっくりゆっくり歩く。50メートル先を歩くせっかちな友人が滑って転んだ。幸いケガはない。宿に荷物を下ろしたら郡山の繁華街に向かうつもりだったが、不安になってきた。
「水林亭」は思ったよりずっと立派な旅館だった。このときは1泊税込7,150円(朝食付き)だったから自己負担は1泊1,800円ほど。福島県に感謝である。
宿の近くの停留所(熱海車庫/終点)から熱海駅行きのバスは1日に9本のみ。この日は雪でタクシーも動いていない。なんとか熱海駅まで歩いて行ったとしても、帰りはどうなる? 凍てつく夜道を千鳥足で歩くなんて危険極まりない。温泉とふかふかの布団は掌中にある。宿の夕食は予約していない。
熱海駅前には飲食店らしきものが2、3軒あったが、営業していなかった。部屋飲みするにしても酒とつまみは確保しなければ……。我々は郡山の夜への未練を断ち切り、500メートル先のセブンイレブンへ買い出しに行った。
コンビニにも少なからず地方色というものがある。収穫は喜多方の名水仕込みの日本酒と中通り名物のイカ人参。イカ人参とは生の人参の細切りとスルメを醤油・みりん・酒で和えた保存食だ。
80年代半ば、池袋駅東口の大衆酒場「男体山」で食べて以来大好物である。栃木の名物かと思っていたのだが福島だったとは。
地下1階の大浴場で湯につかり、温浴効果が抜けぬうちに部屋に戻る。ビール→焼酎→日本酒。いつもの飲み友達と終電を気にせずに鯨飲するのは楽しい。
酔った友人がスマホのカラオケアプリで歌い始めた。私は「こんな山奥でカラオケなんて無粋だ」と抵抗したはずなのだが、気が付いたらスマホ片手に歌っていた。彼が眠ってもまだ歌っていた。
この日は言うまでもなく100ゼロでバケーションの圧勝。まあいいか、日曜だし。