2日目 会津若松へ

最初の朝食は、焼鮭、ハムエッグのほうれん草添え、たらこ、ワサビ漬け、きんぴらごぼうなど。ごはんは自分で好きなだけよそう。デザートには福島名物イチゴも

旅先だと前の晩どんなに深酒をしても早起きできる。それは仕事に復帰するというプレッシャーがないからだ。温泉地で朝の沐浴が待っていたらなおさらだ。現金なものである。

朝風呂につかってから1階で朝食をいただき、部屋に戻ろうとすると、「コーヒー飲んで行ってください」と初老の男性から声をかけられた。

番頭さんだろうか。話し好きで、洒脱な人だった。この人は次の日の朝も、またその次の日の朝もコーヒーをいれてくれ、話し相手になってくれた。番頭さんのおかげで友人が帰京したあとも退屈しなかった。

友人はこの日の夕方まで時間があるので会津若松に鶴ヶ城を見に行こうと言う。今日は少し仕事をしようかなと思っていたのだが、福島出身の人に強くすすめられては断れない。

熱海駅で郡山とは逆方向の磐越西線に乗って50分ほど行けば会津若松だ。列車は猪苗代湖の上辺に沿うように西へ西へと進む。車窓はずっと吹雪いている。

磐梯熱海駅に停車中の磐越西線

会津若松駅に着いても小雪が舞っていた。友人も私も歩くのが好きなので鶴ヶ城まではバスやタクシーを使わずに行く。大町通りから野口英世通りに入るころには空は晴れ渡っていた。

鉄道駅付近の繁華街の歴史が浅いのは、この街も例外ではない。20分ほど歩くと蔵造りの建物が目立ってくる。

立派な商店街だ。この街の豊かさが伝わってくる。

会津若松の「野口英世青春通り」には蔵造りの建物が多い

旅先では今そこに暮らしている人々の生活感にふれるのが好きなので、城は積極的に見てきたほうではないが、雪化粧した鶴ヶ城はじつに容姿端麗だった。

これまで各地で見てきた城のなかでも特に印象に残っている愛知県の犬山城は、最上階からの眺めがすばらしかったが、城自体の美しさでは鶴ヶ城に軍配が上がる。

北側から鶴ヶ城を見上げる。まさに鶴のような優美さ
会津若松駅前、創業120年「マルモ食堂」のソースカツ丼(1,000円)。衣はサクサク、ソースはあっさり、肉は脂身が少なく、意外に大人っぽい食べ物だった

郡山の大衆酒場

「和泉」は精肉店が経営しているだけに鶏肉のチューリップは特に旨かった

会津若松駅から再び磐越西線に乗り、宿のある熱海駅を通り過ぎ、郡山駅で下車する。時刻は4時半。前項で「生活感にふれるのが好き」などと書いたが、なんのことはない、地方都市の大衆酒場で飲むのが好きなのだ。

弱いくせに飲んだらとことん。ハシゴ好きなのだが、この日は熱海駅から宿近くまでの終バスが7時28分発なので、2時間半しか飲めない。しかも郡山の酒場の事前知識はゼロ。友人も郡山には詳しくない。昭和生まれの嗅覚だけが頼りだ。

まずは駅西口を背に右手のアーケードに入る。いい店は商店街から一歩入ったところにあるからだ。精肉店の後ろに赤ちょうちんを発見。精肉店と同じ店名だ。迷わず入る。

月曜の5時前だが、カウンターには先客が1人。奥のテーブルに陣取り、大生を頼む。つまみは焼鳥盛り合わせ、刺身こんにゃく、枝豆……。さすがお肉屋さん、鶏肉が旨い。

このときは焼方と配膳を女性2人でやっていた。客に話しかけて来たりしない、ベタベタしない接客だ。こちらから話しかけて郡山のことをあれこれ聞きたいが、今日は時間がない。

大生を3杯ほど干し、日本酒に移行する頃にはカウンターが埋まってきた。どの客も女将と軽口を叩いたりしない。いい店だ。一人飲みも気楽そう。明日また来ようか。

もう一軒行きたかったが、タイムアップだ。郡山駅で友人は家族へのみやげを買って新幹線に、私は部屋飲み用の酒と刺身を買って磐越西線に乗った。

2日目もバケーションに支配されてしまった。まあ友人の希望だからしかたあるまい。