できる/できないの臨界を考えよう
――その他に、若者に欠けていると感じる部分は?
自分を客観視する能力ですね。ひとつの感情で自分を染め上げてしまう、悪い意味でシンプルな人が多い。大変なことが起きたとき「どうしよう!」という焦りで思考がいっぱいになれば、誰だってパニックに陥ります。不安を覚えるのはしかたのないことですが、どうすれば解決できるのかを冷静に考える“もう一人の自分”をもってほしい。
もうひとつ、「できる/できないのボーダーを考える」ことも重要です。人間誰しも、全ての物事をこなせるわけじゃない。でも、全部できないわけでもありません。自分の臨界はどこなのか考えて、「できる」範囲は自力で解決し、「できない」ところにある物事は、誰なら解決できるのかを考えましょう。「HOW(どのように)」を「WHO(誰が)」に変えるのです。仕事でいちばんまずいのは、抱え込んで爆発すること。困難に直面したときに早く報告できないのは、HOWをWHOに変える基準を見失っているからです。「できません、ごめんなさい」と言っても、最終的にパンクしても、どうせ怒られます。だったら、早めに怒られたほうがいい。できないことをできないと言う勇気を持ちましょう。
いろんな物事の捉え方、考え方には、自分を救ってくれるものがあります。それを選択しなかったり、そもそも思考法を知らなかったりするのは、非常にもったいない。先ほど「予備校講師になってから、ずっと順調だ」と言いましたが、それはここまでお話したようなことを自覚的に実践しているからではないかと思っています。自分の専門分野で努力を重ねた上で思考法を学べば、より成果をあげることができると思いますよ。
プレゼンで重要なのは情報の“次元”
――最後に、プレゼン上手になるためにアドバイスをください。
いちばんてっとり早いのは、自分のプレゼンをビデオに撮って見ることですね。僕自身は、自分の授業をずいぶん見直しました。また、落語家やお笑い芸人など、プロの話し方は勉強になります。うまいと思うのは、西の桂雀三郎、東の春風亭小朝。やわらかな“間”がすばらしいですね。
でも、プレゼン下手の原因は、話し方にもありますが、それ以上に戦略そのものがなっていないことにある場合が多いのではないでしょうか? 誰に対しても同じような話し方、手法でプレゼンをする人がいますが、それではダメですよ。僕も授業の際、「目の前にいる人たちに通じる言葉は何か?」を考え、時代や地域によって言葉を変えています。同じパータンでプレゼンをするというのは、そういう思考に欠けている証拠です。
まず、プレゼンを受ける側のキーパーソンが、どういう情報に対して高い評価を下すのかを考えましょう。そして、伝える情報の“次元”を決めるのです。直線は1次元、平面は2次元、立体は3次元と定義されていますが、ここでは文章だけの情報を1次元、図やグラフの入ったパワーポイントを2次元、動画を3次元と考えてください。どれを選ぶかは、キーパーソンが発信者であるときに、何を使うがヒントになります。パワポで説明したがる人にはパワポを、あるいはひとつステージが上の動画で伝えれば、ぐっと説得力が高まるはずです。
全会一致は難しいですから、キーパーソンの心を狙い撃ちするプレゼンを目指しましょう。誰に伝えるか、そしてどの次元で伝えるかを考えれば、成功率が上げられると思いますよ。
【プロフィール】
林修(はやしおさむ)
東進ハイスクール、東進衛星予備校の現代文講師。東京大学法学部卒業後に入社した長銀を半年で退社し、予備校講師に。主に難関コースを担当、東大受験生から絶大な支持を得ている。東進のCMでの台詞「いつやるか? 今でしょ!」が2013年、トヨタのCMに起用されたことで人気に火がつき、現在はテレビやラジオなどのメディアでも活躍中。著書に『いつやるか? 今でしょ!』、『今やる人になる40の習慣』(ともに宝島社)がある。